相続税の課税根拠は
「所得税の補完的機能」へ

Photo:denebola_h-Fotolia.com

 ピケティ氏の問題提起をきっかけに、資産にまつわる税制を色々と考えてきた。最後に、わが国の代表的な資産税である相続税と固定資産税を取り上げ、課税根拠、課題などを考えてみよう。

 まずは、本年1月から4割程度の増税が始まっている相続税である。
              
 相続税の課税根拠は以下の通りである。

 第1に、富の集中防止である。「銀の匙をくわえて生まれてくる」ということわざがあるが、親から莫大な資産を相続し人生の早い段階から経済的基盤を形成することができれば、資産格差は固定化し階層社会ができる。そのことは中期的に見れば、社会の亀裂をもたらし、治安の悪化など国民全体の不利益につながりかねない。

 これが相続税の古くからの課税根拠である。

 しかし、超高齢化が進む時代の相続は「老老相続」と表現されるように、相続人(相続を受ける方)も高齢者である。つまり、「銀の匙をくわえて生まれてきて優雅な生活を送る」というような状況ではない。また、戦前のわが国のように、富が集中し権力と結びつくという状況が生じているとは思えない。

 そこで出てくるのが、「所得税の補完的機能」という捉え方である。これは相続税を、様々な優遇税制によって十分な課税ができなかった被相続人の生前所得について、死亡時に改めて清算課税を行うという考え方である。

 戦後の経済成長期以降、わが国の資産性の所得、つまり株式譲渡益や配当所得への課税は大層甘かった。1987年、88年の税制の抜本改革以前は、おおむね資産所得は非課税であったし、それ以降も原則課税とされたが、長い間証券優遇税制が適用されてきており、課税は十分ではなかった。これを死亡時に補完することがあってもいいのではないか。これが「所得税の補完的機能」としての相続税の考え方である。