ただ握るのではなく、おいしく握る
そう、おむすびはただごはんを握ってできるのではありません。
食べておいしいと感じるおむすびでないと魂に響かないのです。
おいしいおむすびをつくるには、まずはおむすびにふさわしいおいしいごはんを炊くこと。
ごはんを炊くときには目盛りで炊けばいいわけではありません。
毎日食べるお米は違いますから、目盛りを見ただけでは、はかれないのです。
だから、わたしは洗ったお米を、だいたいの量の水に浸しておき、30分たったところでお米の吸水状況を確認してから正確な水加減を決めていきます。
お米は水を吸うと白くなりますから、確認したときに、お米がまんべんなく白くなっていたら水の量を減らし、まだ透明の部分が残っていたら少し水を足して、そして釜のスイッチを入れます。
わずか数ミリの水の量の違いですが、これが出来ばえを大きく左右するのです。
炊き上がったごはんがふっくらと盛り上がると、おむすびにちょうどいいちょっとかためのごはんです。
やわらかいごはんは、ちょっと真ん中がへこんでいて、握るとくっついてしまってお米がつぶれてしまいます。
ごはんも生きていますから、呼吸しないとダメなんです。
こんもりするのは空気が入っているから。お米とお米の間に空間が感じられますから、そういったごはんは透き通っています。
“いのちのうつしかえ”のときは、いつも透明になりますが、ごはんであってもこうした状態が理想なのです。
おむすびを握るときは大きさをそろえるために、お椀を用意します。
そしてぬれ布巾でぬらしたまな板に、お椀によそったごはんをひっくり返して並べていきます。
まな板をぬらしておくと、まな板にごはんがくっつきませんし、木のまな板がごはんの熱を吸収してくれます。
並べたごはんに具を入れたら、手に水と塩をつけて、順々にごはんを握っていきます。
握るときは強く握らないでお米が呼吸できるように、軽く圧をかける程度に。2個目からは塩だけで握ります。
握ったおむすびにはのりをつけますが、のりはあらかじめおむすびの大きさにぴったりと合うように正方形に切っておきましょう。
おむすびの上と下に互い違いにのりをきれいにつけて、もう一度軽く握り形をととのえたら完成です。
おむすびの中に入れるものは梅干やしゃけなどさまざま。のりをつけてもゴマをつけてもいいでしょう。
「おむすびを握るときには、どんなことを考えるのですか」とよく聞かれますが、わたしは一心におむすびを握っていますので、まったく何も考えられない。ただおいしくなりますように、と祈りながら握っています。
子どもと握るときは“食べることはいのち”だよ、だからぎゅっと握らないで、やさしく握るんだよ、と教えるとよくわかりますよ。