経済停滞に悩むヨーロッパで
人材流出が加速する

 次はヨーロッパを見てみよう。

世界のGDPのうち一七兆ドルを生み出す地域だ。EUの指導者たちはユーロ危機の最悪の時期を乗り越えた気でいるが、二〇一二年の欧州委員会の報告書は、今後の見通しについて厳しい警告を発している。

 域内の若者の失業率は二一%で、二〇〜二四歳の一五%は働いていないし学校にも行っておらず、「労働市場から永久に排除されて社会保障給付に依存するおそれ」がある。

 労働人口に対する年金生活者の割合はすでに高いが、二〇五〇年には現在の二倍になるだろう。イスラム教徒の人口は二〇二〇年までに「容易に倍増」し、二〇五〇年までにヨーロッパ全体の五人に一人が「おそらくイスラム教徒になるだろう」

 一方、トップクラスの人材はヨーロッパから流出している。スペインでは二〇一一年に約三七万人が主に中南米諸国に移住した。ポルトガル人もブラジルやアンゴラといった旧植民地に大量に移住している。

 その「ほとんどは技能のある人々だ」と、あるEU研究者は指摘する。ソルボンヌ大学のジャック・レニエ教授(経済学)は、「私が担当している金融のゼミでは、フランス人の学生は一人残らず外国に出て行くつもりだ」と、デイリー・テレグラフ紙に語っている。さらにレニエの予測では、フランスの学生の四人に一人は外国に移住したがっており、その割合は「市場価値の高い学部では八〇〜九〇%に上る」。

 国家の前途はいろいろな方法で予測できるが、最も重要なのは人的資源を育てること、その国に行きたいと思わせること、そしてその国に居続けたいと思わせることだ。この基準では、ヨーロッパの未来は暗そうだ。

 欧州委員会の報告書に書かれたヨーロッパの「国勢」の歴史的変遷は衝撃的だ。ヨーロッパのGDPが世界に占める割合は、一九〇〇年は四〇%だったが二〇〇〇年には二五%まで低下し、二〇五〇年には一五%まで低下するおそれがあるという。「世界の製品に占めるヨーロッパ製品の割合は、グローバル化が始まる前よりも低いだろう」