なぜか皆、マーケットで儲けてるやつは強欲な連中だと思っている

ちきりん Panasonicが他メーカーの真似をして後から製品を出すのは、賢い戦略だと思うんです。ある意味、マーケット感覚がすごくある。なぜなら、ナショナル、松下、Panasonicってマークには、他の追随を許さない高い「信頼」という価値があるでしょ。後から類似商品を出して一気にシェアを獲得するのは、この価値を最大限に活かした戦略です。

田端 Panasonicでは、研究所に所属する社員も必ず販売研修を受けると聞きました。全社的にそういうDNAが染み付いているんでしょうね。

ちきりん そもそも創業者の松下幸之助さん自身が、マーケット感覚の塊みたいな人ですからね。これからは就職先選びでも、マーケット感覚が身につく会社かどうかを、参考にしたほうがいいですよね。

田端 わかります。僕にとって会社というものは、個人が、より大きなマーケットに効果的にアクセスするためのチャネルである、と思っていて。今はネットで個人でも直接にマーケットに参加することもできますけど、やっぱりある種の巨大なマーケットには、会社というか、組織を通じてじゃないと有効にアクセスできないんですよね。

ちきりん そうですね。自分の興味のあるマーケットにアクセスできるのはどの会社なのか、という視点で就職先・転職先を選ぶのもありですね。

田端 あとマーケットに常にふれていることが、長期的に個人としての自分の価値を守ることもできると思うんですよ。この業界の風向きが悪いからこっちの業界に転職しようとか、この原料が高くなりそうだから早めに違うものに切り替えようとか。マーケットに触れている人のほうが、触れていない人よりもずっと先に気づける。マーケットって学歴差別も人種差別もなく、誰にでも開かれている、非常にフェアなものなんです。だけど、なぜかみんなマーケットに関わると自分だけは常に振り回されてしまう方で、そのなかで儲けてるやつは抜け目のない強欲な連中だと思っている(笑)。

ちきりん 望もうと望むまいと、資本主義社会で生きている限り、みんなマーケットには参加してるわけだし。

田端 その通り。『マーケット感覚を身につけよう』の最終章は「変わらなければ替えられる」というタイトルですが、本当に「(マーケットに)さらされなかったら、さらわれる」、って感じだと思います。揺れ動きに自分の意志で向き合わないと、知らないうちに波に流されちゃいますよ。

ちきりん 左翼の人っていまだに、資本家と労働者みたいな対比でモノを語るんですけど、いまの時代は株を買ったら誰でも資本家になれる。誰でも市場からメリットを得られるんです。「自分には何のとりえもないからマーケットは怖い」と言う人もいるけど、今は、価値観がすごく多様化してるから、どんなものでも売り方次第で価値が認めてもらえる。ニッチなモノほど高く売れたりする時代なんですよね。