12月15日、「アバクロ」の通称で知られる“カジュアル・ラグジュアリー”のSPA(製造小売り)ブランド「アバクロンビー&フィッチ」が、ついに日本に上陸する。場所は銀座六丁目。へネス・アンド・マウリッツ(H&M)の斜向かいだ。
銀座店はニューヨーク、ミラノなどに続く5つ目の旗艦店で、アジアへの出店はこれが初となる。アバクロ本社も「トレンド発信地・銀座の持つラグジュアリー感はアバクロンビー&フィッチのライフスタイルとぴったり」と期待は大きい。
銀座店は、アバクロンビー&フィッチにとって、ニューヨーク、ミラノなどに続く5つ目の旗艦店で、アジアへの出店はこれが初めて |
アバクロは、商品自体はポロシャツやTシャツなどベーシック。なによりの強みは「あらゆる感覚を刺激する」商品の見せ方にある。
海外の同店舗には大音量で音楽が流れ、フレグランスの香りが漂う。アバクロの世界観を体現した「ストア・モデル」と呼ばれるスタッフも魅力の一つだ。銀座店では、56メートルいう「銀座エリアで一番背の高い」構造を生かし、820平方メートルの手書きの壁画が店内を覆うという。
2008年9月にH&Mが銀座に日本一号店をオープンさせて以降、日本には空前のSPA、ファストファッションブームが訪れている。高級ブランドの集積地である銀座ですら時流に乗って様変わり。6丁目、7丁目の中央通沿いにそろったH&MやZARA、ユニクロをはしごする人々が後を絶たない。
ブームの理由は、H&Mを始めとする各種ブランドが低価格であり、しかもそれに品質が見合っていたからだ。若者中心に「良いものを一枚買うよりたくさんの中からコーディネートを楽しみたいというニーズも増えている」(ファッション誌関係者)。
しかし、アバクロの一点当たりの平均単価は、2008年度で36.69ドル。「1万円あれば全身そろう」といわれるH&Mやフォーエバー21と比べると「やや高め」(業界関係者)だ。
「旬を逃した感はある。海外ファストファッション勢のイメージが低価格に固定される前のほうがよかった」。ファッション業界をよく知るディマンドワークスの齊藤孝浩社長は、“やや高め”のアバクロの進出をこう語る。
日本での価格設定がどうなるかは明らかにされていない。「米国本国との1.2倍程度におさまれば、受け入れられる余地は十分にある」(齊藤氏)。
迎え撃つブランドは冷静だ。H&MのPRコミュニケーションマネージャーは「競合他社が近くに出店することで客足が増える」と語っているし、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、「われわれの商売をするだけ。特に対策はない」と余裕の体だ。
銀座には来春、松坂屋のグッチの入店箇所にフォーエバー21が出店する噂がある。競争激化のなか、今後はSPA、ファストファッションブランドにも優劣がつきそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)