「狩猟採集民に教育なし」?
文化人類学者たちによる長年の観察・研究によって、狩猟採集民(ピグミー、ブッシュマン、イヌイット、アボリジニなど)での「教示の不在」がわかっています。たとえば、こんな様子です。
・事例1:母親が魚をさばいている。そばの子どもがそれを見ているが、親はさばき方を教えようとはしない
・事例2:年の離れた子どもたちが道具を使って遊んでいる。年少者が遊び道具をつくろうとしているが、年長者は見ているだけでつくり方を教えようとはしない
親や年長者は、教えればすぐできることでもあえて教えません。子どもたちが自らやることを待ち、失敗したら笑ってあげるのです。
個々人の創造性を引き出すためだ、といわれています。ヒトは教われば同じことをやるだけです。それが一番楽なので。そこに「創意工夫」はありません。
「教えない」ことによる教育法は、おそらくは現生人類ホモ・サピエンスの力を引き出すための原初のやり方だったのです。
教えないが、見させて学習機会を与えるピグミー族
しかし最近、日本が世界に誇る「交代劇(*1)」研究の一貫で、ただ「教えない」だけではないことがわかってきました。
「交代劇」研究で知りたいことは「ネアンデルタール人は滅び、ホモ・サピエンスは生き残った。それはどんな学習能力・方法の差によるものか」です。
当時のホモ・サピエンスの学習能力や方法を推定するために、その名残をもつ現代の狩猟採集民を研究しているわけです。全体で6プロジェクトが編成されましたが、寺嶋秀明教授率いる研究班A02がこれを担います。
*1 正式名称は「ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究」。代表は赤澤威教授。