歴史的事件のはずなのに、熱狂はない。希望も高まらない。なぜか。民主圧勝の主因が有権者の自民党に対する“懲罰的投票行動”だからだと、小林慶大教授は独自データから分析する。

小林良彰
小林良彰・慶応大学教授

―308議席を獲得した民主党の圧勝を、どう評価するか。

 社会民主党、国民新党、さらに新党日本、新党大地まで連立を組み、また無所属当選組の民主党入党があれば、与党として衆議院議員定数480の3分の2である320議席を超える可能性もある。

 これだけ大勝すれば、4年後の任期満了までの間に解散、総選挙は行われないだろう。皮肉な言い方をすれば、仮に支持率が低迷したとしても解散しなくてもいいことは、この2年間の自民党が証明して見せた。また、来年の参議院選挙に破れ、過半数を割り、ねじれ国会になったとしても、定数の3分の2議席を握る衆議院で再可決すればいい体制が整う。これも、自民党が行ってきた手法だけに、批判しにくい。そうして4年後に、衆参ダブル選挙だろう。

―1993年に誕生した初の非自民政権は短命で終わったが。

 1993年当時は、第一党は自民党だった。その自民党を包囲し、第5党から首相が誕生した。だが、今回は圧倒的議席数の民主党に連立する形になる。構造がまったく違う。ばらばらにはなりにくい。

―惨敗した自民党はどうなるのか。

 極めて厳しい。119議席を惨敗と言うが、それも公明党の支援あっての数字だ。今後、“野党連立”が自公の間で続くとは考えにくい。公明党の選挙協力なしでは、119議席すら確保できない。

 そもそも、次の選挙までの4年間を自民党の落選組が耐えられるだろうか。自民党議員は地元に秘書を多数張り付けるなど、コストの高い政治活動に慣れている。彼らが自動車を捨て、自転車で走り回り、4年間で辻立ちを何千回もする日常を続けられるだろうか。

 小選挙区で落選、比例でからくも復活した大物議員たちにも、試練が待っている。自らの選挙区には、民主党の現職議員がいる。彼らが日々、支持基盤を拡大していくのを目の当たりにすることになるだろう。

―民主党が圧勝した理由は何か。

 総選挙直前に慶応大学が全国で行った電話調査を分析すると、今回の民主圧勝は、有権者の自民党に対する懲罰的投票行動が原因だ。

 麻生内閣の特徴は、支持率が極めて低いだけでなく、自民党支持層の支持率も低いことにある。自民党支持層の麻生支持は49%、不支持41%、支持なし層の麻生支持は8%、不支持は80%だ。そして、自民党支持層で麻生不支持な者で、自民に投票する者は33%しかいなかった。また、自民党支持者のなかで単独政権を望むのはわずか5%、自民中心の連立政権を志向する者も36%に留まり、合わせても半数に達しない。