欧米ではフィンテックが急成長しています。個人向ローンやスマホ決済などのITを活用した新サービスが続々導入されています。フィンテックの新市場を取り込もうと欧米の銀行はベンチャー企業の買収も積極的に行っています。JPモルガン・チェースも新しいスマホ決済を手がけるベンチャー企業に出資しました。

 ビットコインなどのように新しいフィンテックによって決済が銀行から離れていく中、逆に銀行内に取り込もうとしています。

決済インフラの進化とレガシー化リスク

 決済インフラはITに依存するところが大きく、そのシステム開発は非常にコスト(費用)が高いのが一般的です。東京オリンピックのためのインフラ開発は、オリンピックの施設と同様にレガシー化するリスクもあり、金融機関にとって経営的な問題となります。オリンピックが終わり、平常時に戻ったら、取引量が増えることは考えにくい状況にだからです。

 一部には、とにかく損得抜きに欧米のコピーをせよという方もいますが、そう主張する人は民間銀行に勤務したことがなく、銀行の実際の経営を分かっていない可能性があります。“金融”は、市場も事務も、実際に現場でやってみないと理解できないことが多いのです。無理なインフラへの投資はまさにレガシーとなり金融機関の経営を悪化させます。そのような事例はいままでにも結構ありました。

 今後、とくに大きいコストは、最終的には利用者である顧客が負うことになり、また、そもそも株主が納得できるものでないと実行できません。このような厳しい経営環境下、負担を抱え込む可能性があるものを無理にやる必要があるのであろうか、とも考えられます。さらに6月から新たな企業統治原則「コーポレートガバナンス・コード」の適用が始まり、株主資本利益率(ROE)など資本効率に関する経営目標の設定もされたいま、キチンとした収支計算(費用便益分析)をしないといけません。一言でいうと、いい加減な判断によるレガシー化は絶対に避けなければならないのです。

 このようなコストがかかる改革を進めていくと、たとえば地方銀行の方々は膨大な費用負担の影響が大きくなり、費用の観点から、合併が進むことになる可能性もあります。決済を強みとする地銀はほとんどいない可能性が高く、コスト削減が重要な合併要因となります。現在も金融機関向けにNTTデータとIBMのシステム共同センターがありますが、それが合併の要因になっています(地銀の合併については、各県ごとに地銀を持っていたいという事情も絡みますが) 。

 しかも、たとえばメガバンクが「IT会社」をつくり、そのインフラをクラウドの様に開放するならば、結びつきが強くなります。そういった決済主導の再編の可能性もありえるのではないでしょうか。しかも、IT会社という組織を作っても、実際のシステム開発はシステム会社に発注しなければなりませんから、コスト全体が減ることは予想しがたいのです。

 いずれにせよ、東京オリンピックのレガシー問題は、新国立競技場などの施設だけではなく、金融界にもあるのです。

※本連載は自身の研究に基づく個人的なものであり、所属する組織とは全く関係ありません。

【著者紹介】
しゅくわ・じゅんいち
博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、この4月で10年目、180回開催、会員は8000人を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』、東洋経済新報社から『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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