3.11の震災で売上は3分の1に
真面目な生産者ほど大きなダメージ

 通常の商品であれば、まず価格があり、それにみあった材料があり、製品がある。ところがはるこま屋の味噌はなによりも五月女さんの「あってほしい理想」が形になったものだ。最高の原料を使った無添加の味噌作りは先に述べた鑑評会などで高い評価を受け、自らが「ライフワークにして自信作」という『あるちざん』という味噌などを世に出し、自然食品系の小売りなどで高い人気を集めていた。

 ところが、である。はるこま屋は東日本大震災とその後の原発事故により大きな影響を受けることになる。

「風評被害の怖さは実態がないということです。自然食品、無添加系の消費者は非常に敏感で、原発事故後、茨城、栃木、福島一帯には強い拒否反応があるようです。小さいお子さんがいて心配するのも仕方がないと思うのですが、放射能検査でND(検出せず)と出ても、そんなこととは関係なく受け入れてもらえない。この栃木県内でも大きなダメージを受けたのはオーガニック、有機農業の生産者や無添加、自然食の『真面目に食に取り組んできた』生産者でした」

 自信を持っていた製品の売上は3分の1に落ち込む。電話口などで強い反応をぶつけられることもあり、絶望的な気分にもなったという。

「消費行為として食べ物は扱われ、人と人との密度は薄くなった。顔の見える関係、などと都合のいい言葉はありますが、生産者から見ると消費者の顔は見えてなかった」

馬頭広重美術館。設計は隈研吾。ルーバーを多用することで環境に溶け込んだ建築

 2011年の11月、五月女さんは馬頭広重美術館のなかのカフェ、レストランの運営を引き受ける。はるこま屋が開いたJOZO CAFEだ。それまで飲食店の経営経験があったわけではなく、さらに冬になると来客数が減少し、様々なテナントが入っては撤退する難しい場所だっただけに、大きなチャレンジだった。

「直売の比率を高めなければいけないというのもありましたが、味噌を売りたいというよりも食品を通して「生きている根源みたいなところを伝えたい」という想いがありました。とにかくここではおいしいものだけを出したかった」

 そばは五月女さんが「日本でも最高峰のそば」と思う那珂川町健武太郎地区の「太郎在来」を使ったものを、オープンから一年経ってはじめたカレーはライター時代に出会った石垣牛を使ったもの、そばつゆは天然醸造の丸大豆醤油と天然素材だけで出汁をとったもの……という具合だ。

「毎日のように風評と向き合っていた日々だったんですが、ここでは多くの方が喜んで帰ってもらえる。それは本当にありがたかった」