たかがビジネス、
おおらかにやってやれ!

――南場さんに伺いたいのですが、マッキンゼーというコンサルの雄から、不確実な起業に飛び込んだのは、かなり大きな決断だったのではないかと思います。あらためて、どういう心境の変化だったのかを教えてください。
南場 うーん、あんまりロジカルに説明できないんですよね。ただ、やりたくなっちゃった。熱病にかかった感じです。森川さん、いま、そんな感じじゃない?
森川 もう少し落ち着いてはいますが(笑)、そんな感じですね。
南場 「マッキンゼーをやめて起業します」って言ったとき、全員が反対したんです。親戚にも「小学校ではいい子だったのに」とまで言われて(笑)。
森川 あはは、そんなこと言われても。
南場 ドロップアウトと捉えられたんですよね。起業ステイタスもいまより低かったし、起業自体にお金もかかった。「失敗したら二度目のチャンスはないぞ」と言われていましたし、賢い人はとらない選択肢だったんです。私も、ちゃんと考えていたらやめていたかもしれません。でも、邁進してしまった、という感じでしたね。
森川 僕が驚いたのは、「システム開発を外注したら、できあがっているはずの日に1行のコードも書かれていなかった」というエピソード。『不格好経営』には、さらっと書いてあるけれど、相当大変だっただろうなあ、と。あれを乗り越えたのがすごいですよね。
南場 あれね! 普通、終わりですよね。だから、今なにがあっても、なにを聞いても驚かないなあ。
森川 やっぱり、次に活きますよね。
南場 用心深くなるしね。森川さんは、そういう経験ってあります?
森川 ハンゲーム・ジャパンに入社して一ヵ月目で、データベースが全部消えてしまったことがあって。事業が一週間止まったときには「終わりだな」と思いました。
南場 ああ、それ、うちもあった。肝が冷えますよね。
森川 しかも、事業責任者になった翌週だったんですよ(笑)。
南場 うわあ、それは大変だ。
森川 でも、結果的によかったんです。エンジニアをはじめ社員とコミュニケーションをとるなかで、お互いの信頼も高まったので。
南場 さすがですね。
森川 だから、悪いことはすべて次の「いいこと」につながるんですよ。というか、つなげないとそこで終わってしまう。いま目の前で起こっている最悪なことをそこで終わらせず、いかに最大の「いいこと」に変えるか。それはいつも考えていますね。
南場 そうそう。「命をとられるわけじゃない。たかがビジネス。おおらかにやってやれ」ってね。
森川 ええ、ええ。
南場 ちょっと広い視野が必要なときとか、おおらかに構えたほうが対処がよくなることってあるでしょう? 私、絶体絶命のときほど、この言葉を声に出して自分に言い聞かせるようにしています。
森川 ホームランを打つ時と同じですね。バットを振り切らないとちゃんと当たらない。
南場 そうそう、振り切るためにはある程度の脱力が必要なんだよね。