10月も半ばを過ぎ、各大学では3年生が2009年度の就職活動をスタートさせている。そんななか、一般の大学と事情を異にするのが音楽大学である。なにより、音大の多くは就職課そのものを持たない。プロの演奏家育成を教育目標にしているためだ。
しかし実際に、演奏活動で食べていける人はごくわずか。総合大学の音楽科を含む音大卒業生は年間約6500人(うち首都圏約2500人)。そのうち演奏家になれるのは約200人、わずか3%にすぎない。就職率自体も50%を下回っている。オーケストラに入ろうと思っても、欠員が出るまで何年も待たされるのは当たり前。ソロ演奏家になろうにも、世界的な賞を受賞するなどして知名度を上げなければ、活躍の場も得にくい。
そこで、音楽と仕事の両立の道を開こうと立ち上がったのが人材派遣大手のパソナ。南部靖之代表の発案で、まず昨年6月、通常の事務などの業務のほかにイベントや接待などで演奏活動をする派遣スタッフの組織「ミュージックメイト」を立ち上げた。現在は約200人で、うち60人が実際に派遣就業中という。
同事業の新卒採用を兼ねて、この10月13日には、東京・原宿の「倶楽部PASONA」で初のイベント「音大生の就職課」を開催。140人の音大生(主に3、4年生)が集まった。南部代表と作曲家の渡辺俊幸氏とのトークに始まり、ミュージックメイト社員の演奏によるランチコンサート、個別の進路相談と、ユニークでおシャレな就職セミナーは、「予想以上の盛況だった」と南部代表もホクホク顔だ。
音大生の場合は、短時間勤務など音楽活動と両立できる雇用形態を希望するケースが多い。一見ハンディとなりそうだが、これまでの派遣実績では「幼少期から練習を積み上げてきているため、仕事の“習得能力”に優れている」と派遣先企業からの評価は高い。この反響が事業化への動機となった。
いまや多くの子どもが幼少期から楽器を習っているにもかかわらず、将来の就職を考え、中学入学時点で諦めるケースが多い。その意味では、両立の道への風穴が開いただけでも福音といえる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 町田久美子 )
※週刊ダイヤモンド2007年10月27日号掲載分