利上げ開始時期とその先は?
論点は「新しい世界の姿」へ

 利上げ開始時期の決定には、これら労働市場とインフレ動向に加えて、市場との対話が進むかどうかも加わるだろう。2013年のいわゆる「テーパーかんしゃく」(FRBがテーパリングの可能性を示唆して、株価下落や新興国から資金が流出して新興国通貨下落といった反応が起きること)のような事態は想定していないとしていることから、市場に驚きを与えずに利上げを始めたいはずである。年内の利上げ開始の可能性が高いことを示すことで、市場に利上げ開始を織り込ませたいと考えられる。

 また、イエレン議長の記者会見では、利上げペースが緩やかなものになることが強調されていたが、利上げサイクルのなかで、市場が機械的な利上げを織り込めば、市場金利が適切に上昇することなく、引き締め効果が得られないことも避けたいのであろう。2004年から2006年にかけて、ほぼ機械的な利上げを行い、結果的に引き締めが不足したことを挙げ、市場に配慮しすぎて政策の自由度を失っていたことを反省した発言とみられる。

 年内利上げの可能性は極めて高まったと考えられるが、9月から10月にかけて、10月から始まる新年度予算の作成と債務上限問題が控えている。連邦議会は8月から9月第1週にかけて休会であり、9月末までの審議時間は限られている。

 財政問題が大きな話題となった2013年に、QE3に伴う資産の買い入れ規模を縮小させるテーパリングが始まった。その開始決定は同年9月が本命視されていたが、実際の決定は12月で、その間の10月には連邦政府機関の一部が閉鎖される事態が生じていた。今回は、緩和ペースの縮小ではなく、金融引き締めに転じる決定となる。財政関連の問題がクリアされていないのであれば、9月16日-17日のFOMCで利上げ決定は困難であろう。弊社では従前通り、12月の利上げ開始を予想する。

 記者会見における質疑では、利上げ開始後のテクニカルな質問も増えており、たとえば、利上げ開始後のバランスシートの縮小方法についての質問があり、イエレン議長は今後の検討課題だとした。利上げペースが緩やかなものになると予想されるというイエレン議長の発言は、5月22日の講演と同じ内容であり、6月1日のフィッシャー副議長の講演で、利上げペースは「crawling」(這い上がる)であって「liftoff」(打ち上げ)ではないとしたことと整合的である。

 執行部では、利上げ開始決定後の世界を描き始めていることがわかる。経済指標の改善と市場の織り込みの程度によって利上げが始まるだろうが、その開始時期を特定することよりも、利上げ開始後はどうなっているか、徐々に利上げ開始以降の世界がどうなるかに論点が移りつつある。