安全・危機管理コンサルタントのチャールズ・カスト博士(Dr.Charles Casto)が6月29日、東電・柏崎刈羽原発を視察した。カスト博士は、2011年3月の福島第一原子力発電所事故の直後に、米国・原子力規制委員会(NRC)を代表して来日し、事故対応に協力した人物である。
同氏は、数年前までBWR型原子炉の運転に従事。福島事故対応の任務の際、ルース駐日大使に対して直接報告する立場にあった。11ヵ月間にわたる福島事故対応の任務の後、国際原子力機関(IAEA)のレビューチームに加わった時期もある。
6月30日、カスト博士と懇談させていただく機会を得た。福島事故を踏まえた柏崎刈羽原発の安全対策レベルや、日本の原子力規制の在り方について御意見を伺った。以下、聞き手は筆者である。
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スリーマイル島事故では
「全原発を止めろ」とはならなかった
──福島事故は、発電中ではなく、停止中の事故だった。だが日本では、政治もマスコミも、“発電しているから危険、停止していれば安全”という空気となっているせいか、全ての原発は定期検査で停止した後、今もまだ発電を再開していない。
米国では、1979年のスルーマイル島(TMI)事故後、事故炉以外は発電を続けていた。旧ソビエト連邦では、1986年のチェルノブイリ事故後、事故炉以外は発電を続けていた。米ソと比較すると、原発事故後の対処をめぐる日本の特異性が際立っていると思うのだが、これについてどう思われるか。
TMI事故もチェルノブイリ事故も、運転員による運転ミスが引き起こした事故。米国では前に別の原子炉で似たような事象は発生していたのだが、安全に復旧した。その事象発生からの教訓を生かせなかったことや、運転員が十分な訓練を受けていなかったことが、TMI事故に繋がった。原因は、プラントの設計・設備面でのものではなく、人為的ミスであった。福島事故は、震災時に運転員が最善の対応をしたので、人為的ミスではなかった。むしろ、プラントの設計が関係していると思う。
TMI事故の際は、今の日本のように、国中の原発を停止しろ、などという声はなかった。ミスをした運転員の責任が追及されたし、TMIを保有していたメトロポリタン・エジソン社が悪者扱いされたというのはあった。しかし、電力業界全体が悪者扱いされたことはない。当時は、1973年のオイルショックの記憶が新しく、しかも石油価格が高かったので、原発を止めようというようなことにはならなかった。米国民はエネルギー価格には敏感だ。