その夜、健太は瀬戸に国際電話をかけた。いつでも電話してほしいという言葉を思い出したからだ。健太は乱入者の顛末を報告した後で、〈本質的な問題〉について健太が思い至った意見を瀬戸にぶつけてみた。
「ほう、よくここまでたどり着いたね。まずは合格だ」
「これが、顧問が仰っていた本質的な問題だったのですか」
「そう、これが小城山上海の本質的な問題だよ。株主間で目指す方向性が異なるため、取締役会の意思決定が遅れ、迅速な打ち手を打とうとする経営陣の足を引っ張ってきた。この本質的な問題を解決するためには、早期に株主を一本化する以外にない。海外事業部ではまさに今、その問題に取り組んでいる最中だ。田中君がかなり頑張ってくれているよ」
「それは良かったです!それまでどうにかして持ちこたえないといけませんね」
「それと同時に、小城山上海の経営チームの補強も早めに進めないといけない。調達部門を統括していたウェイのような経営陣は、自らの不正に手を染めるだけでなく、周囲へも深刻な悪影響を及ぼす。経営チームのメンバーは求められるスキルを持っていることが重要だが、同じ価値観やモラルを共有していることが欠かせない。リーダーの役割には、そのような人物から構成される優秀な経営チームを作ることが含まれるのだよ」
「確かに、ウェイを早期に退社させたスティーブの手際は見事でした」
「また、経営管理インフラも早期に整備する必要がある。そもそも小城山上海の業績がここまで悪化した背景には、経営の根幹である資金繰りが十分に管理されていなかったことがある。生産品質においても、KPIが生産ラインの要所ごとにモニタリングされていなかったことが、不良率の原因究明を遅らせることにつながった」
「よくわかりました。でも今回は、問題の本質に到達するために、かなりの時間がかかってしまいました。どうすれば、もっと早く本質的な問題を特定できるのでしょうか」
「誰もが表層的な問題には気づくものだ。しかし、その先にはなかなか進めない。表層的な問題の背後に存在する本質的な問題を特定するには、その問題が発生している原因を何回も考え抜くことだ。ただ漫然と考えるのではなく、自分なりの仮説を持って、繰り返し考えることだ」
「わかりました。肝に銘じて、努力を続けてみます」と言って、健太は電話を切った。
(毎週火曜日と金曜日に更新。次回は8月7日更新予定)