「どういうこと?」再び、健太は小声でチョウに尋ねた。
「彼らも、このためにサプライヤーに雇われた連中らしいね。こういう脅しめいたことを専門にしているから、警察官にも顔見知りが何人もいるんだ。彼らも仕事だから、絶対に相手に暴力を振るったりはしないんだ」
その後2時間ほど居座ってから、乱入者たちは帰って行った。
そこにスティーブが戻ってきた。
「何事もなくて良かったですね。でも、なぜ少しでも支払って追い返さなかったんですか」
健太が2人に尋ねた。
「考えてごらんよ。1社にそれをやると、明日にはもっと多くのサプライヤーが押しかけてくる。今度は支払われるまで居座るよ。そうしたら、うちの資金繰りはたちまちアウトだ。こちらに致命的な問題については、決して妥協してはいけないんだ」とスティーブが答えた。
「スティーブがこの部屋にいたら、向こうも簡単には引き下がらなかったよ。意思決定できる立場の人には、彼らも真剣になるからね」とチョウが付け加えた。
「じゃあ、チョウさんが彼らに言っていたのは?」
「私は責任者じゃないから判断できないって、ずっと言い続けていたんだ」
「今日はどうにか帰ってもらったけど、またこういうことは起こるだろう。黒字化の見通しも立ったから、本社からの支援が届くのももうすぐだと思うが、それまでは予断を許さない状況が続くな」とスティーブは健太に尋ねた。
「年明け早々にはどうにかすると、海外事業部が言っていました。地方政府も株主として応分の負担をしてくれないかと質問されましたが、どうでしょうか」
「それは難しいな。地方政府は、この事業に対する関心が著しく低くなっている。本来は上海地方銀行だって、彼らからの口添えがあればもう少し態度を軟化させていたはずだ」
「そうですね。もう少し支援してくれても良さそうですね」
「支援どころか、取締役会でも重要な意思決定ができずに困っている。生産の作業員は不足しているが、管理部門の人員が余剰なので、管理部門のリストラを提案したが、あえなく却下されたよ。地方政府にしてみれば、当社の利益よりも、地域の雇用を確保するほうが重要だからね。株主の目線が揃っていないことの弊害がだんだんと顕在化しつつあるな」
〈もしかしてこれが、当社の本質的な問題だったのか!〉
健太はようやく気づいた。思い切った意思決定が遅延していること、経営陣が地方政府派とそれ以外で対立していること、身を切る本格的なコスト削減への取り組みに踏み切れないこと、などの多くの問題が、2つの株主の関心が異なっていることから発生していることが見えてきたのだ。
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