朝倉 それともうひとつ、米国は内製化しないことが強みになっていますね。オープンイノベーションの発想が浸透しているから、社内でも作れないわけではないけど、外から買った方が早いと合理的に考える。買収や売却にしても、日本人は“身売り”という言葉にも象徴されるようにいまだに非人道的なイメージを抱きがちで、首を傾げたくなります。

新規事業を成功させたいなら
スピンオフして自由を担保すべき

真山 日本企業が米国企業のように“遊び”をビジネスにどんどん取り込んでいくには、何が必要だと考えますか。

朝倉 新規事業は本体と切り離しスピンオフ(分社化)して自由にやらせることこそ、“遊び”をうみだす秘訣じゃないでしょうか。新規事業は時間もかかるし最初から大きな売上を期待できるわけでもないから、大企業の図体からすれば間尺に合わない。組織からして物理的に切り離さなければ、なかなか成功しません。

「スピンオフしたら自由にやらせるべき」と真山仁さん     (撮影:住友一俊)

真山 最近は大企業もスピンオフしたほうがいいことは分かってきているようで、分社化の話はよく耳にします。だけど、組織を分けても、働き方が親会社と同じでは意味がない。本来は、会社のルールや資本をはじめ、すべてのしがらみから切り離して、自由な実験をやらせてみるべきだけど、たいていは「過去に例がないから」と許してもらえない。結局、課や事業部を増やすのと大差がなくなってしまう。

朝倉 なぜ新規事業のスピンオフがうまくいかないのかと言えば、人・モノ・カネ・情報という経営リソースのうち、ひとえにヒトの問題だと思います。それも能力ややる気の問題ではなく、真山さんがおっしゃるように要は周囲とのしがらみです。新規事業に関わる人材を選ぶ際も「おいおい、うちのセクションから引き抜くのは勘弁してくれよ」とか文句をつけがちだし、「今日はどのぐらい進んだんだ?」とすぐに成果を求めるような茶々を入れたり。組織における人の囲い方に問題があるわけです。いかにして、元気のいい人たちが大暴れできる土俵を作っていくかが課題でしょう。

真山 そうやってきちんとスピンオフして自由にやらせて新規事業を育てなければ、大企業であっても生き残れない時代になっていますからね。

朝倉 一定規模以上に成熟した企業では、各事業にライフサイクルがある以上、ファイナンス的な視点によるポートフォリオ経営にならざるを得ませんよね。ゼネラル・エレクトリックのように、業界1位の事業のみを手元に残すといった経営スタイルに最後は収斂されていくと思います。

 そして、そういった成熟企業の経営者に求められるのは、自身で事業を作りだすことより、社員たちが自由に暴れ回る環境を整備してあげることです。日本人が抱く理想の経営者像といえば、松下幸之助や井深大、本田宗一郎、現役では柳井正さんや孫正義さんといったところで、みずから事業に入り込んで成功に導く典型的なオーナー社長ばかりです。でも、成熟してしまった企業の経営者が模範とすべき社長像は違う、ということも覚えておくべきでしょう。

真山 組織のなかには個性的な変なヤツが混じっていて、時折とんでもないことを始める。でも経営者がそこに可能性を見いだして「やらせてみろ!」と号令をかけることで周囲もそれを認め、大きな成果につながっていきます。昔はそんなふうに、誰かが御輿に載せられると、周囲もそれを担ぎ上げるようなチームワークがあったのでしょう。大きく突き出た杭は打たれずに生き残った。今の日本企業は誰かが何かをやり出そうとすると、嫉妬が勝って足を引っ張られがちなのが寂しいですね。