朝倉 仮に過去に成功体験のある企業でも、その成功を引きずり続けてしまうのは問題ですよね。過去の成功を含めた資産を持っていることが、実は新規事業をうみだすうえで大きな弱みになる。とかく経営者は、新しいことを始めようとすると「既存事業とのシナジーは?」と尋ねがちですが、シナジーって僕はウソだと思っています(笑)。

 既存事業のほうにも課題や優先順位があるなかで、新規事業部からいくらシナジー効果を訴えかけても後回しにされますよ。新規事業がグーっと育ってきたときに、既存事業から働きかけてこそ、シナジーも生まれるものではないでしょうか。You Tubeもグーグルに買収されてすぐに貢献したわけではなく、ここ数年でようやく動画広告で連動して稼ぎ頭になっていますよね。新規事業が突き抜けるまで、既存事業が足を引っ張ったらダメだと思います。

経営再建に必要な要素は3つ
「理」「心」「運」の理想的な比率とは?

真山 ところで、朝倉さんはミクシィの再建を託されて約1年間にわたって社長を務めたわけですが、再建に向けてどのように優先順位をつけて何から手を付けていったのですか。

「どんな企業の再生でも、やるべきことは極めてシンプル」(朝倉さん)

朝倉 どんな企業の再生でも、順番はさておき、やるべきことは極めてシンプルだと思います。ミクシィの場合も基本は3つです。第一に既存事業の収益性を改善する。第二に新たな収益源をつくっていく。それには内製だけでなく外から買うという両方のアプローチを考えていました。そして第三に、会社の風土を作りなおす。

真山 その3つの中で、どれが一番大変でしたか?

朝倉 3つのいずれかというより、アクセルをふかしつつブレーキも同時に踏まなければいけないような状況だったことが大変でしたね。

 ミクシィの場合、P/L(損益計算書)は相当痛んでいましたが、B/S(貸借対照表)は良好で現金もふんだんにありましたし負債もほとんどなかった。えてして、P/Lやキャッシュフローの改善を迫られている企業は投資に対して保守的になりがちですが、本来B/Sとは切り離して考えるべきテーマです。経営者として産みの苦しみを認めなければ、新たなものは何も作り出せないというのが僕の考え方でした。

真山 結果として再建に成功したわけだけど、それは想定どおりでしたか。

朝倉 いえいえ、ラッキーですよ。自分の経験則からいって、再建に不可欠な要素は「理」「心」「運」の3つです。「理」はロジックや戦略、「心」は決めたことをやり抜くマインド、そして「運」は読んで字のごとくです。会社が急回復する条件として、これら3つがどのような比率で作用すると思いますか?

真山 私の仕事上の経験から考えても「運」かな(笑)。

朝倉 僕の感覚では「理:心:運=1:4:5」なんです。何がヒットして何が外れるのかは運次第だから、あくまで「運」は結果の十分条件。必要条件は「理」と「心」で、これらがないとお膳立てが整わない。それも「理」については奇策があるわけじゃないから、難しいことを考える必要がない。それで、理:心=1:4の比率が重要になってくるんです。