今回は、世界的に業績不振で苦しんでいる航空運輸業界を取り上げ、「戦略のパラドックス」の観点から分析してみたい。
航空運輸業界は「オープンスカイの動向・燃油費の変動・景気動向」といった不確実性に大きな影響を受けており、これからもそれは変わらないと考えている。
加えてリーマン・ショック以降は、それ以前は「勝ち組」とも言われていたエアラインも含めて多くが赤字に苦しんでおり、「業界全体として有力な成功モデルを見失った」と言えるのではないだろうか。
このような状況下では、1つの戦略にコミットするのは非常にリスクが高い。戦略のパラドックスをふまえた「柔軟な戦略」により、選択肢を維持しながら進むべき道を見極めていくことが、「生き残りの鍵」と考えている。
航空運輸業界の直近10年間は
「M&Aと淘汰の時代」だった
エアライン(航空運輸会社)は、大きく2つのタイプに分けられる。
1つめは「FSA」(Full Service Airline)と呼ばれる、昔ながらのエアラインである。高品質サービス・高価格が特徴で、代表的な会社には、米国ではアメリカン、デルタ、ユナイテッド、欧州ではルフトハンザ、エールフランス-KLM、ブリティッシュエアウェイズ、アジアでは日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、シンガポール航空などがある。
もう1つのタイプは、LCC(Low Cost Carrier)と呼ばれるタイプだ。1990年代中頃から本格的な広がりを見せ、近年の成長は目を見張るものがある。徹底的な低価格が特徴で、機内食などのサービスは極力なくすか有料化している。
代表格は、米国ではサウスウエスト、ジェットブルーエアウェイズ、欧州ではライアンエアー、イージージェット、アジアではエアアジア、タイガーエアウェイズ、ジェットスターなどである。
たとえば、エアアジアでクアラルンプール(マレーシア)からシンガポールまでの片道(所要時間50分)は、「条件次第で2000円以下」という安さだ。