今年6月29日、ドイツのエッセンで開催されたRed Dot Awardの授賞式。スクリーンには受賞作品「ブレインレジスター」が映し出され、檀上にはブレイン株式会社・代表取締役の天毛伸一氏が上がった

今年6月、世界3大デザインアワードのひとつ「Red Dot Award」で、日本企業4社が最高賞の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」を受賞した。中でも関係者の注目を集めたのが、社員わずか30名の日本企業「blayn(ブレイン)」だ。国内外でほとんどの人が初めてその名を耳にするような会社が、どのようにして世界に名だたる大企業と肩を並べることができたのか。その秘密は小さな会社だからこそできた、大胆なデザイン戦略と製品作りへのチャレンジ精神にあった。同社の代表取締役・天毛伸一(てんもう・しんいち)社長に話を聞いた。(取材・文/島崎ふみ)

POSレジがXperia、
新型ロードスターなどと同時受賞

 Red Dot Awardは、米国のIDEAアワード、ドイツのiFアワードと並ぶ、世界3大デザイン賞のひとつだ。主催はドイツのノルトライン・ヴェストファーレン・デザインセンター。60年の歴史を誇るり、世界中からエントリーする幅広いカテゴリーの工業製品を、デザインの革新性・機能性・人間工学などの9つの基準で審査する。

 本2015年度は、世界56ヵ国1994の企業やデザイナーから、合計4928点の応募があり、うち1240点が受賞、さらにそこから81点が“Best of the Best”に選定され、6月29日にドイツのエッセンにて授賞式が開催された。

マツダの「Mazda MX-5(日本名:マツダ ロードスター)」、ソニー「Xperia E3」、ヤマハ発動機「MT-07」などに互しての受賞となった Photo:MAZDA

 この栄えある賞“Best of the Best”を日本企業で受賞したのが、ソニーのスマートフォン「Xperia E3」、マツダの「Mazda MX-5(日本名マツダ ロードスター)」、ヤマハの大型バイク「MT-07」と車いす用電動アシストユニット「JWX-2」、そしてblayn(ブレイン)のPOSレジ「ブレインレジスター」である。

 ブレインレジスターは、「レジを再発明する」をコンセプトに、従来のPOSレジが持つ課題を解決した新しい製品だ。受賞にあたっては、普段、我々が店頭で目にするPOSレジが抱えていた、デザイン性に乏しい外観・大きなサイズ・高価格・複雑な操作性という4つの課題をクリアした点が大きく評価されたようだ。

 この斬新なレジを作ったブレイン株式会社とはどんな会社なのか。同社は2001年に、現在で言うところのクラウド型ソフトウェアの会社としてスタート。主たるサービスである法人向けのメール配信部門で契約社数6700社(2015年7月末現在)、5年連続シェア1位を誇る、業界ではかなり名の通った会社だ。しかしハードウェアの分野には、進出してわずか3年目の新顔だ。

 そのソフトウェア会社が、今回、POSレジという、異分野のハードウェア開発に着手したのは2012年のこと。ソフトウェア会社(IT企業)が、なぜ、「モノづくり」に乗り出し、いったいどのようにして、わずか3年の間に、企画から製品化を果たし、世界的なデザインアワードの最高賞まで取ることができたのだろうか。同社代表取締役の天毛伸一社長(41)によれば、ハードへの参入は「いわゆる多角経営の一環ではない」。