人間は、脳あってこその存在。人の行動、思考、感情、性格にみられる違いの数々は、すべて脳が決めているのです。「心の個性」それはすなわち「脳の個性」。私たちが日常で何気なく行なっていることはもちろん、「なぜだろう?」と思っている行動の中にも「脳」が大きく絡んでいることがあります。「脳」を知ることは、あなたの中にある「なぜ?」を知ることにもなるのです。この連載では、脳のトリビアともいえる意外な脳の姿を紹介していきます。

数年ぶりでも
なぜスキーはできるのか?

 数年ぶりにスキーをする人は、いざゲレンデに立ったとき、完全に滑り方を忘れているでしょうか。そうではありません。本人は滑り方を忘れたと思い、ゲレンデに立つのを怖がったりしますが、ゲレンデに立ってみると、思いのほか、身体が滑り方を覚えていたりするのです。少し練習すれば、たちまち昔の感覚が甦ってきます。

 これは、いったいどういうことなのでしょうか。

 この場合、本人はスキーを忘れたと思っていても、脳がスキーの滑り方を記憶していたのです。ゲレンデに立ったときその記憶が甦り、少し練習したあとは、以前と同じようにスキーを楽しめるのです。

 スキーは記憶のタイプでいえば身体で覚える「手続きの記憶」、別名「技の記憶」にあたります。

 身体で覚える、というのは、たとえば一度自転車の乗り方に習熟すれば、それ以降忘れることはありませんよね。つまり、身体で自転車の乗り方を記憶しているのです。それが「手続きの記憶」です。

 しかし、古い昔のことをたやすく思い出せる点は、頭で言語や図形を覚える陳述的記憶でも同じです。

 忘れたと思っていたのに、実際には忘れていなかった。それは不思議な体験には違いないでしょう。

 あることをふいに思い出す…、それは記憶が意識の世界に浮かび上がってきたとも考えられます。いつもはそんなことを意識するはずがないのに、何かのきっかけで意識してしまうのです。