実質賃金は労働生産性に収斂する
受け身では恩恵は得にくい

 ただ一方で、円安が進んでいますから、原油価格下落で生活が豊かになるというよりは、輸入品の価格上昇分を相殺する程度かなと思います。

――では結局、「景気が良くなった」という実感を味わうところまでは、行かないんですね。

 実質賃金は、経済理論を用いて数式を展開すると結局、労働生産性に収斂することになっているんですよ。つまり、同じ仕事の仕方をしていて、実質賃金だけが上がるということはないのです。

 アベノミクスによって労働需給が逼迫し、仕事をする機会が増えています。これは失業率の低下でも明らかですよね。労働の機会が増えているのだから、もっと自分の長所を活かせたり、効率性の高い仕事ができる職場に転職するとか、個々人が自分の生産性を上げることで、実質賃金は上がる可能性が高まります。また、生産性が変わらなくても働く時間を長くして賃金を上げるという手もありますね。

 いずれにしても、実質賃金が労働生産性に収斂されるということは、今までと同じ仕事をしていて、そのまま景気が良くなったとしたら、名目賃金は上がるけれど、実質賃金は上がらないということなのです。

――ということは、景気回復で単純に豊かになる、というよりは、豊かになれるチャンスが増えた、と捉えるべきなのでしょうか?逆に言うと、がんばった人とそうでない人で、二極化が進みそうです。

 そういうことです。二極化は悪い事でしょうか?私はそうは思いません。デフレは本来、生産性を高められる人であっても、その機会を与えられないという、停滞した経済の状況です。デフレから脱却することで、こうした人たちが自分の持っている能力を発揮しやすくなる環境になります。当然、今までよりも能力を発揮できれば収入は上がりますし、そうでない人は収入が上がりません。

 格差が広がっても、たくさん儲けた人が払う税金によって財源が増えて、がんばれない人たちを支える社会保障、つまり再分配の仕組みが整えられればいいのです。日本はこれまで、再分配ばかりを重要視しており、儲ける人を増やす仕掛けが後回しだったと思います。

 また、デフレ脱却が進むということは、「何もしないこと」のリスクが上がるということです。デフレ下では物価が下がりますから、相対的に現金の価値が上がります。この環境では、できるだけ現金を手元に貯めておいて、買い物も何もせずにじっとしているのが、合理的だということになります。だから経済が活性化しないのです。

 物価が上がってくると、逆に現金の価値が下がってきます。そんな環境下では、経済活動を積極的に行う人がより恩恵を受けて、そうでない人が割を食うことになるのです。安倍総理は「がんばった人が報われる社会にする」と言っていますが、まさにそういうことです。というか、がんばらないと報われない。