私は、「計画者」と「実行者」を分けてはいけない、と考えています。
大企業には多くの場合、「計画」をつくることを仕事とする、いわゆる「事務方」と呼ばれる人々がいます。そして、日々ユーザーと向き合って、懸命に「いいもの」をつくろうと努力している現場の人々よりも、「事務方」が権威をもつことがあります。そのことに、僕は常々疑問を感じていました。なぜなら、そのために非常に大きな弊害が生まれているからです。
最大の弊害は、「事務方」が権威をもつことによって、計画を達成することが目的となってしまうことです。
たとえば、スケジュール管理。たしかに、きちんと工程管理をすれば計画どおり生産できる業態であれば、スケジュール管理をすることに意味があるでしょう。しかし、新商品を開発するといったクリエイティブな仕事は、必ずしもスケジュールどおりに進められるわけではありません。
クリエイティブとは「ゼロから1」を生み出す仕事です。いいアイデアが浮かばなければ、一歩も先に進むことができません。そもそも、「スケジュール管理」できないものなのです。にもかかわらず、スケジュールどおりに進めようとすれば、クオリティを落とさざるをえません。
売上管理もそうです。年度末に向けて、このままでは計画どおりの売上を達成することができない。だから、クオリティの低いプロダクトでも無理やりリリースしようとする。これでは、本末転倒ではないでしょうか?
僕たちは計画を達成するためにプロダクトを生み出すわけではありません。あくまで、ユーザーが幸せになるようなプロダクトを生み出すのが本筋。「事務方」が権威をもつことで、この本来あるべき姿が歪んでいくのは、きわめて深刻な弊害だと思うのです。
それだけではありません。
もうひとつ重要な問題が発生します。
なぜなら、計画には失敗がないからです。「事務方」は計画をつくり、その実行を現場に求める。計画どおりにいかなければ、それは現場の責任。「事務方」が責任を問われることはありません。だからこそ、“賢い人”ほど「事務方」を目指します。そのほうが、“出世”への近道だからです。
しかし、それが本質的に正しいことでしょうか? 僕は、はなはだ疑問です。会社にとって、もっとも重要なのはユーザーに喜ばれるものをつくり出すこと。そのためにがんばっている現場のスタッフが、いちばん報われる組織でなければならないのではないでしょうか?
だから、LINE株式会社にはいわゆる「事務方」はいません。
事業リーダーが現場のスタッフとともにどのように仕事を進めるかを話し合う。そして、それぞれのチームごとに計画を共有する。それで、十分なのです。
もちろん、文書化はしません。毎日のようにチームで話し合っていますから、わざわざ文書化しなくても、頭のなかで計画は共有されています。それに、時々刻々と状況は変化しますから、計画を文書化することに意味がない。むしろ、いちいち作り直すことに労力を使うよりも、プロダクトの制作に全力を上げてもらったほうがいい。
それで何の問題も発生しないどころか、むしろ、望ましい状況が生まれます。なぜなら、自分たちが実行する計画ですから現実的なものになりますし、自分たちが考えた計画だからこそ実行力も伴うからです。(『シンプルに考える』森川亮・著より)