安保法制の国会論戦は非常に充実
あとは国民が選挙で審判を下せばいい

 筆者は、今国会での安保法制の審議を、高く評価している。政府と野党の間で議論が深まらなかったという批判は当たっていない。

「政権担当経験」持った野党は、なにが政府にとって答えづらい、難しいポイントなのか、政府の立場を理解できるようになったようだ。その強力な野党が、法案を徹底的に潰そうとした。「存立危機事態の定義」「存立危機事態認定のタイミング」「存立危機事態における武力行使が第三国に及ぶ可能性」「後方支援における自衛隊員のリスク拡大の懸念」など、さまざまな問題点に対する野党の質問は非常に厳しかった。政府は曖昧に答えざるを得なくなり、何度も窮地に追い込まれた(第109回)。

 また、国会論戦を通じて、野党の考え方が多様なことも明らかになった。民主党は、集団的自衛権は「違憲」であるとして、安保法制の「廃案」を主張した。だが、国際的な安全保障環境の変化と、それへの対応の必要性についての認識は、安倍政権とそれほど変わらないものだ。明確な違いは、「国民の命と平和な暮らしを守るのに必要なのは個別自衛権であり、集団的自衛権は必要ない」というところだと整理できる(第111回・2p)。

 最後まで与党との修正協議を試みた維新の党は、「集団的自衛権の限定的行使容認」自体には賛成である。つまり、集団的自衛権自体は「違憲」ではないと考えているということだ(第111回・1p)。維新の党が問題視したのは、「集団的自衛権行使の要件をめぐり、自国防衛の目的を明確にする」ことだ。要は「ホルムズ海峡を行使の対象から除外せよ」ということなのだが、最終的に与党から「神学論争」と切り捨てられてしまった。

 一方、「次世代の党」「日本を元気にする会」「新党改革」の3党は、自衛隊の海外派遣の際の「国会の関与」を重要視し、与党が法案の付帯決議、閣議決定でその旨を明記することで妥協し、法案採決に賛成した。この3党は安保法制を「合憲」とみなしている。

 結局、「なにがなんでも反対」というのは、社民党・共産党だけだ(もっとも、公平に見て、社民党・福島瑞穂氏や共産党・志位和夫委員長らの質問も非常に鋭く、充実した内容だったと評価できる)。安保法制の審議において、国会は機能しなかったのではない。むしろ、審議を通じて、野党はそれぞれ、安保法制の問題点を専門的に整理できたといえる。後は、国民1人1人が、今国会の審議内容をしっかり理解し、次の国政選挙で審判を下せばいいのである。