私の結論は、差別化とは、競合と比較して顧客から見た「価値」が高いことだと考える。結局、顧客から見て「違う」か「同じ」かという議論は「価値」の比較であると考えればすっきりする。この「価値」をどのように構築し、持続的に維持するか。私の経験を語りたい。

 数年前、私は、ある業績不振のアパレル企業に出向していた。そのアパレル企業は、絶頂期の7分の1まで売上が落ち込み、大改革を推進しているところだった。ターンアラウンドマネージャ(企業再生請負人)としてその企業に入り込んだ私に与えられたミッションは、競合と差別化できるブランドとビジネスモデルを作り上げることだった。

 アパレルビジネスというのは商品ライフサイクルが短く、また、生産はほとんど大手商社に委託(OEM)しているため、ヒット商品が出れば競合が簡単に模倣する。極めて差別化が難しく、また、価格競争に陥りやすいビジネスだった。

 当時、現場からは沢山のアイデアが出された。

「これからは少子高齢化が進み、高齢者のレジャー需要が増える。だから、旅行をテーマにブランドをつくろう」

「ゴルフにかわいい服がない。だから、ゴルフのブランドを立ち上げよう」

 しかし、これらは、単なる「アイデア」に過ぎず、起死回生の一発をかけて何億もの投資をする判断の根拠としてはあまりに弱い。私はもっと客観的に分析し「顧客調査をやって決めよう」と主張した。

 しかし、現場は納得しなかった。「顧客の言うことを聞き過ぎると、我々の独自性が薄くなってくる」という意見だった。そのアパレル企業は、社員たちが高いプライドを持って仕事をしていたため「客に迎合すること」は「ブランドの死」を意味していたのである。「我々は市場の半歩先を行く」。これが、現場の口癖だった。

 しかし、この考えは危険だった。なぜなら、数多くの差別化戦略を手がけてきた私から見れば、「旅」をテーマにしたブランドも、「ゴルフ」をテーマにしたブランドも、側(がわ)の議論であり本質論でないように思えたからだ。

 競争力を失いつつある企業というのは、毎年、思いつきで従来のビジネスモデルの延長線上にブランドを立ち上げ失敗を繰り返す。こうした改善(既存の枠組みや本質論に踏み込まず、既存の延長でdo more betterを繰り返すこと)からイノベーションは生まれない。

九州で関サバが教えてくれたこと

 アイデアに詰まった私は九州に向かった。一体、差別化の本質とは何か。差別化とはいかに生み出されるのかを知るためだった。私は、アパレル業界に解(かい)はないと思い、関サバに着目した。なぜ佐賀関のサバが一般流通されるサバと異なり、高いブランド力と高価格を維持できるのか調べにいったのである。