介護家族のために
訪問看護師が来てくれる

 アドミラルナースは、認知症者を抱える家族を支える専門の訪問看護師である。ロンドンのNPO、「ディメンシアUK」が認定している。

 アドミラルとは海軍提督のこと。脳血管性認知症を患って亡くなった高齢男性のジョー・レビーさんの遺族が、その遺産の一部をディメンシアUKに寄付した。ジョーさんの家族介護に追われた体験から、家族への社会的サポートがもっと必要だという思いからだ。

 実は、ジョーさんは海が大好きでヨットやボートによく乗っていた。海軍のジャケットや帽子を身に付け、アドミラルというニックネームで呼ばれていたという。寄付者の思いがネーミングとなった。

 アドミラルナースの業務は、認知症の人のいる家族への個別の支援と高齢者医療やケアの専門家へのアドバイス、それに教育である。主に認知症の人の自宅を訪問する。つまり、訪問看護師である。

 英国では、2005年に施行された「メンタルキャパシティ法」で、認知症の本人の意志を尊重し、その権利を守るケアの枠組みが定められた。認知症ケアの歴史にとって画期的な法律と言われる。

 だが、本人が意思決定できなくなると、家族が全面的に引き受けざるを得ない。「そこで、私たちの出番が来る」と話すのは、ディメンシアUKの代表、イアン・ウェザーヘッドさん。

 認知症の症状に対してどのように声を掛け、どのように対応すればよいのか、どのようなサービスを何処で受けられるのなど、不測の事態を迎え戸惑う家族は多い。家族は本人への対応に追われ、不安が高じてストレスがたまり、時にはうつ状態になることも。そのため日常生活に支障をきたすことが少なくない。

 そうした家族を安定した状況に導き、QOL(生活の質)の向上を目指すために、ディメンシアUKは認知症ケアを十分理解した看護師を養成することにした。「家族のために看護師が来てくれることで大きな心の支えになり、嬉しいと言う声をよく聞く」と、ウェザーヘッドさん。

 ナーシングホーム(特養)や病院、ホスピスなどからの要請を受けて派遣する。これらの受け入れ団体は90近くに達しており、それぞれ活動前に契約を交わす。派遣期間は1年から3年。1人で活動する時もあるが、多くは2~4人のチームを組む。その活動費用は、受け入れ団体が負担する。

 1990年に第1号のアドミラルナース認定者を出して以来、2015年8月までに145人に達した。その資格には、第1段階から第8段階まである。本人や家族などからじっくり話を聞かねばならないので、アドミラルナースには精神医療看護師の資格が必要。2015年中には200人に増やしていくという。

 派遣先で最も多いのがメモリークリニックである。半数に達する。レッドブリッジ地区では、6年前にアドミラルナースを受け入れた。初めの3年間は2人いたが、「財政負担が重くなったため」に今は1人になった。アドミラルナースの年間人件費は2万ポンド(約400万円)になるという。