世間の注目集まる公的年金運用
株価が下落すれば巨額の損失だが…
最近、公的年金の運用に関わる取材を受けることが多い。いわゆるチャイナショック後の内外の株価下落を受けて「年金積立金は大丈夫なのか?」という趣旨の質問が最も多かったように思うが、それ以外に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が今後始めるという海外の低格付け債券への投資は適当なのか、あるいは株式市場や金融政策との関係で「公的年金の積立金は、経済政策に利用されたのか?」といった質問もあった。
今回は、公的年金の運用に関して存在する様々な論点に関して、筆者の意見をあらためてまとめておきたい。なお、筆者は、国家公務員の共済年金を運用する国家公務員共済組合連合会(通称「KKR」または「国共済」)の運用委員会の委員を務めているが、本稿の意見は筆者個人のものであって、KKRの見解ではないことをお断りしておく。
さて、世間の注目が集まること自体は、公的年金の運用を改善していく上での後押しになる場合もあるので悪い面ばかりではない。しかし、厚生年金と国民年金の141兆(6月末時点)に及ぶ積立金を運用するGPIFをはじめ、地方公務員共済組合連合会、国家公務員共済組合連合会といった公務員の年金を運用する運用機関の運用担当者は、ここしばらくの世間の視線に対して、いささかやりにくいという思いをお持ちだろう。運用業務の現場には大いに同情する。
例えば、6月末時点で内外の株式を合わせると既に45%強の株式に投資しているGPIFは、内外の株価が1割下落すると、これらの部分で約6兆3000億円強の損失が発生する計算になる(実現損でなくても経済的な現実は「損失」だ)。これだけを取り上げられて、「大変だ」と言われることが多い。
事実、損失自体は無い方がいいが、仮に、現実に発生した損がその額だったとして、これはGPIFの運用責任者なり担当者なりの運用が拙いのかというと、全くそうではない(しかし、しばしば誤解されている場合がある)。
GPIFに与えられた「モデルポートフォリオ」は「国内株式25%、外国株式25%、外国債券15%、国内債券35%」だ。このポートフォリオから計算される内外の株式の損失は7兆500億円だから、6兆3000億円で損失が済むなら、運用評価的には「よくやった」、専門的には「内外株式のアンダーウェイトが適切だった」ということなのだ。