「例えば、インターネットができる以前は、物を買おうとすると近くのお店に行くしかなかったでしょ? だから、そのお店は付近の住人を顧客として独占できた。つまり、競争相手が少なかったの。でも、今はインターネットができたおかげで、お客さんがネットでお店を調べるようになった。だから、他のお店と比べられるようになって、競争相手が増えたってわけ」
「確かに! 私も何か物を買うときには、必ずネットで調べるもん」
「でしょ? そのとき、いろんなお店が検索で出てくると思うんだけど、どのお店で買う?」
「それはもちろん、一番安いお店」
「そう! それで、私たち買う方は得をするけど、その代わり売る方は大変な競争に巻き込まれるの。だって、一番安いお店しか売れないから、価格を下げざるを得なくなる」
「なるほど! それが『競争に参加するプレーヤーが増える』ってことなのね」
「そんなふうに、競争がどんどん激しくなること──つまり競争社会が到来することを予見して、ドラッカーは『マネジメント』を書いたんだって。なぜなら、そういう競争社会にこそ、『マネジメント』が必要になるからって」
「へえ! でも、どうして競争が激しくなると『マネジメント』が必要になるの?」
「私もそれを疑問に思って、文乃先生に聞いてみたんだ。そうしたら、彼女はこう言っていた。そういうふうに競争が激しくなると、勝ち残るのはたった一人で、あとは全て負け──ということになってしまうでしょ。そうなると、多くの人が競争に負けて、仕事がなくなってしまうの。多くの人の仕事がなくなると、社会が不安定になって良くない。ドラッカーはそう考えたんだって」
「確かに! 今は仕事が少ないから大変だって、お姉ちゃんがぼやいていた。彼女、就活の真っ最中だから」
「それで、人々が生きていくためには仕事を増やす必要があるんだけど、それこそが『マネジメント』の最も重要な役割の一つなんだって」
「仕事を『増やす』のがマネジメント? なんだか逆っぽい。仕事を『減らす』のがマネジメントじゃないの?」
「それは『要らない仕事』の場合ね。マネジメントは『要らない仕事』を減らしもするけど、逆に『必要な仕事』を増やしもするの。そうやって、みんなの『居場所』を作っていくのよ」
「居場所?」