280万部のベストセラー『もしドラ』第2弾がついに12/5に発売されます。今度のタイトルは『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』(通称『もしイノ』)。著者の岩崎夏海氏と、ドラッカーの「日本での分身」と言われる上田惇生氏が語り合う、『もしイノ』刊行記念対談・後編。上田氏から「ドラッカーに読ませたい!」と言われた新作の内容とは?
(構成:山田マユミ、写真:京嶋良太)

見えないものを見えるようにする、
ドラッカーのマネジメントの本質

岩崎 3年ほど前、『もしドラ』がきっかけで、全国に展開するある企業の講演に呼んでもらったことがあります。支店長が集まる会合で、僕の講演の前にまず、支店長たちが事業報告をしていたんです。その内容が、彼らが取り組んでいる事業や達成した目標を報告するものだったのですが、ほとんどの支店長が「わが支店では、これだけ人件費を削減しました!」と誇らしげに話していて。まるで「自分はどれだけ従業員を首にしたか」ということを自慢するような空気のなかでマネジメントの話をすることになり、非常に複雑な思いを抱きました。でも、そういう企業は決して少なくないと思います。

上田 自動的に下から何パーセントの人を解雇するというやり方に対しての批判は強いですね。でも、ドラッカーと組んで成功したというのはインパクトが強いから、それがマネジメントの一つとして広まってしまう。でも、そうではないんです。ドラッカーは、「金もうけ」は評価していなかった。


岩崎
 僕は先日、「ドラッカー・ミュージアム」のオープニング・レセプションに参加するためにアメリカに行きました。そこでドラッカー・インスティテュート(クレアモント大学院大学にある、ピーター・ドラッカー氏の思想を受け継ぐことを目的とした非営利団体)で、ボブ・ビュフォード氏に初めてお会いしてきたんですね。

上田 ドラッカーと個人的にも親交の深かった方ですね。

岩崎 ええ。その評議会でスタッフが活動報告をしていたんですが、その内容が最初、寄付金の金額や収支の話ばかりだったんです。そこで、ビュフォード氏が「ドラッカーは、『お金』ではなく『人』の話しかしなかった。なのになぜ君たちは、お金の話ばかりをしているんだ?」と注意しました。

 もちろんスタッフも、財務状況を報告する義務があるし、健全経営であるということを強調したいからこそそういう報告をしているわけですが、それでも結果的に、金に縛られてしまう側面はありますよね。ドラッカー自身、それを間近で見続けていて、お金の問題は乗り越えるのが難しい壁だと思っていたのかもしれません。となると、マネジメントの本質は何なのかという疑問に、多くの人がぶつかってしまいます……。