リーダーに求められる最大の資質とは?
ただ、こうした発想に違和感を覚える方も少なくないと思います。
「お友達感覚(なあなあ)」になってしまって、言うべきことを言えなくなるのではないか、上下関係の秩序は必要ではないか、という考え方です。
私も上下関係の秩序は必要だと思います。
しかし、それは、「責任をとる」という意味においてです。
ファシリテーションをうまくやっていけば、自ずと方向性が見えてくることが多いものです。本当に意見がまとまらなければ、リーダーに一任という形で責任をとることができます。
また、皆でよく話し合って出した結論であれば、潔く責任をとるのもリーダーの仕事です。毅然とした態度が必要なのは、そんなときです。
「皆でこれだけもんで出した結論なのだから、上をちゃんと説得する。もしうまくいかないことがあれば自分がきちんと責任をとる」というような態度は、リーダーとして毅然としていて気持ちがよいです。
そういう態度なら周囲からの信頼も厚くなるでしょう。よく言われることですが、会社では、常に「見ている人は見ている」のです。
結論を言えば、リーダーに最も求められる最大の資質とは、誠実さだと言えるでしょう。
講演などで、上司についての不満を聞くと、「上司に見せる顔と部下に見せる顔が違う」という意見が、かなり多くの人から出てきます。
「上がどうしてもやれと言うから、君たち頼むよ。無理だと言ってはみたんだけど、上がどうしても強硬でね」ということを部下には言い、上司には「はい、任せておいてください! 私からきっちり言い聞かせます!」などと言って、無理な仕事を引き受けてくるようなタイプ。
あるいは、上司にはペコペコへつらうくせに、部下にはパワハラまがいの言動をとるようなタイプもあります。
こういう不誠実な姿を、部下は案外見ているものです。
こんな人は、信頼される上司になれないどころか、「自分の都合ばかり考えている上司」として部下にストレスと嫌悪感を与えるだけの存在になってしまいます。
もちろん、そんな上司のために無理してでも頑張ろう、という前向きな気持ちにはなれるわけがないでしょう。
これも「怖れのリーダー」の一つの特徴です。
自分が人からどう思われるかに目がいってしまうと、結局は「怖れのリーダー」になってしまうのです。
リーダーとしての自分がどう思われるかを気にするよりも、誠実に上司にも部下にも関わっていくことが、「機能するリーダー」に求められる姿勢なのです。
上司の役割はファシリテーターということに関しては、あとで詳述いたします。
精神科医
1968年東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒業、同大学院修了(医学博士)。
摂食障害、気分障害、トラウマ関連障害、思春期前後の問題や家族の病理、漢方医学などが専門。
「対人関係療法」の日本における第一人者。
慶應義塾大学医学部精神科勤務を経て、現在、対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、国際対人関係療法学会理事、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表、対人関係療法研究会代表世話人。
2000年~2005年 衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正をはじめ、数々の法案の修正実現に尽力。精神科専門医、精神科指導医(日本精神神経学会)、精神保健指定医、日本認知療法学会幹事、日本うつ病学会評議員、日本摂食障害学会評議員、日本ストレス学会評議員。心の健康のための講演や執筆も多くこなしている。
主な著書に『女子の人間関係』(サンクチュアリ出版)、『怒りがスーッと消える本』『小さなことに左右されない「本当の自信」を手に入れる9つのステップ』『身近な人の「攻撃」がスーッとなくなる本』『大人のための「困った感情」のトリセツ』(以上、大和出版)、『十代のうちに知っておきたい?折れない心の作り方』(紀伊国屋書店)、『プレッシャーに負けない方法―「できるだけ完璧主義」のすすめ』(さくら舎)など、多数。
※次回は、12月7日(月)に掲載します。