「ディメンシア(認知症)」の英語表現も疑問

 もうひとつ、相当前から気になっていたのは認知症の英語表現、「ディメンシア Dementia」である。精神的活動、あるいは心的状態が、「de」で否定される。心が空っぽ、精神が通常でないという、かなり大雑把な外見的な捉え方のように見える。

「痴呆」とまで激しくはないが、認知症の当事者にとってはあまり歓迎される表現ではないだろう。そこで、用語に敏感な英国人の認知症当事者に尋ねてみた。

 11月初旬に英国スコットランドからジェームズ・マキロップさん(74歳)が来日した。マキロップさんは、認知症の人のグループを世界で始めて2002年に立ち上げ、当事者の声を国際的に発信し続けている。

「電車の運転士や医師、看護師、介護者などは皆それぞれのグループがある。認知症の人だけないのはおかしい」と考えて、多くに人に呼びかけ、当事者の組織作りに奔走した。「スコットランド認知症ワーキンググループ」である。いまでは、130人もの会員が集まっている。

 そこで、まず手掛けたキャンペーン活動は、自分たちへの呼称であった。当時は、「Dementia Sufferers(認知症に苦しむ人、認知症患者)」と呼ばれていた。それを「People with Dementia(認知症のある人)」「People Living with Dementia(認知症と共に生きる人)」に変えた。

「初めはPatient(患者)と言う表現を止めてもらうようにしました。私は病気そのものではなく、銀行員であったし、今も夫であり、父親ですから」とマキロップさん。英国や欧州のアルツハイマー協会が今では、「認知症と共に生きる人」と言う表現を使うようになったと言う。

 そんなマキロップさんに、Dementiaの用語に疑問はないのかと質問した。返ってきた答えはいささか意外だった。

「私たちのワーキンググループでも、疑問視する声が挙がったことがだいぶ前にありました。代わりの用語が提案されましたが、それがとても難しい専門用語だった。それを普及させようとしましたが、残念ながら広まらなかった」

 同じ記者会見の席で、「徘徊に相当する言葉あるか」と問われマキロップさんは、「wanderingは、あちこちさまようという意味になり、相手を見下したことになります。スコットランドでは、大学教授が『Walking Not Wandering』という書名の本を出しています」と話した。

 やや説明口調ではあるが、Walking Not Wandering とはなかなか適確な表現のように思える。

 普段は何気なく読んだり、話したりしている言葉だが、時には立ち止まって、その意味を考えてみることで、事の本質を見極めることにたどりつきそうだ。