日本市場の約25%のシェアを握る家電量販店トップのヤマダ電機は、次の成長戦略として、中国市場の攻略に挑む。海外進出を掲げてから約2年。満を持して中国東北部の主要都市、遼寧省瀋陽市に今年12月、売り場面積約2万3000平方メートルの第一号店をオープンする。日本の家電量販店としては初だ。

 現地関係者によれば、当初は出店候補地として天津市も検討していたが、市政府からの出店許可等の取得に手こずり、瀋陽での出店が先となったという。現地従業員の採用も開始するなど、準備は着々と進んでいる模様だ。

 同社の海外進出の背景にあるのは、人口の伸びが期待できない日本の家電市場の頭打ちである。長期的な目標である連結売上高3兆円を達成するには、もはや海外市場へ出て行くしかないのだ。なかでも13億人を抱える中国では、今後15~20年は中間所得層が増え続けるとも言われており、巨大市場は膨らみ続ける。

 中国政府がリーマンショック後、総額4兆元の景気刺激策を断行したことも奏功し、中国はGDP成長率が再び二桁に戻るなど、急回復を見せた市場だ。その景気刺激策のなかでも、農村に家電を普及させるための補助制度である「家電下郷」や、買い替えの補助制度である「以旧換新」によって、家電は売れに売れている。

 それを見据えてか「初年度黒字化を目指す。出店する以上、それを目指すのは当たり前だ」と一宮忠男社長は強気だ。さらに「今後3年で5店程度の出店を目指す」と早くも多店舗展開への意欲を見せている。

 しかし、決して簡単ではない。基本的に中国では、出店はすべて許可制だ。出店しようとすれば地元政府の許可が必ず必要になる。日本で行なってきたシェア奪取のための短期間での大量出店は、中国では難しい。

 したがって、物流や在庫管理などのコストを、大量出店によってもたらされるスケールメリットで吸収する方法は活用できない。

 また、家電量販店と言っても中国と日本では中身はまったく違う。中国式はメーカーごとに区画が割り振られ、販売員はメーカーからの派遣。つまり“場所貸し業”をしているのが中国の家電量販店だ。一方日本式は商品ごとに陳列し、販売員は原則的に量販店の従業員だ。

 ヤマダ電機は「日本式を中国に持ちこむ。それが中国のお客様にとって最善だからだ」(一宮社長)というが、メーカーごとの陳列に慣れ親しんだ中国の消費者が、日本式を受け入れるかどうかは未知数だ。

 実際に中国家電量販店大手の国美電器は、日本の家電量販店で勤務していた幹部をスカウトして、日本式の商品別陳列の店舗を何度かテストしているが、消費者には受け入れられず、撤退した経緯がある。

 加えて、ある大手電機メーカー中国支社長は「販売員の教育がもっとも手間と時間と金がかかる。商品が売れるかは販売員教育にかかっている」とその難しさを語る。

 ヤマダ電機は現地採用した中国人従業員を日本で研修するなど、準備に余念が無い。同社の目前には巨大な市場が広がるが、その攻略にはいくつもの足かせを引きずりながら戦う、厳しいものになりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)