中所得国の75%は
高所得国に移行できない

アメリカはそんな中国の投資対象になっているが、アメリカで不信な目で見られ、特に通信など国家安全保障が絡む分野では、政府の許可を得られないこともある。中国によるサイバー攻撃が激しくなっているのは、イノベーション経済に脱皮するために必要な技術情報を獲得する努力とも考えられる。

中国は、難しい体制移行の時期に差しかかっている。向こう5年間で1人当たりの所得は1万5000ドルを超えると言われているが、歴史的にこの水準は、政治的自由化運動が起きる分岐点と考えられている。人々の教育水準が高く、人口の平均年齢が高いと、その傾向は一段と強くなる。

しかし中国が民主化すれば、これまで以上に愛国主義的な機運が強くなり、近隣諸国との緊張が一段と高まるだろう。長期的には、法治主義が根づき、政治体制が安定して脅威とみなされなくなったとき初めて、中国の「ソフトパワー」は高まる。

しかし歴史的に、民主化はスムーズに進まない場合がほとんどであり、難しい移行期に入った中国が、ますます扱いにくくなることを近隣諸国や国際社会は覚悟をしておくべきだろう。

政治体制をスムーズに移行させるには、生活水準を持続的に向上できるかどうかがカギとなる。それが実現できれば中所得国の罠は回避できるだろう。ほとんどの国はこれに失敗した。2009年の時点で、1960年に中所得国だった国の4分の3が中所得国のままか、低所得国に転落した。高所得国に移行できたのは西ヨーロッパ諸国と日本くらいだ。