三谷宏治氏が30年にわたって編み上げた、コモディティにならないための「戦略読書」。それは「何を」「いつ」「どう」読むかを工夫して、自身のオリジナリティを育てるための読書法である。「読書ポートフォリオ・シフト」「セグメント別ワリキリ読書」「5つの視点で読む発見型読書」「知のオープン化書斎術」など、オリジナル人材になるための戦略的な読書法とは何か? 新刊『戦略読書』から一部を抜粋して紹介する連載の第2回。

「何を」「いつ」「どう」読むかでオリジナリティと効率が決まる。
それがしなやかなキャリアにつながっていく

 どんなにイノベイティブな商品・サービスも、そのうち競合に追いつかれ、差別性を失ってコモディティ(誰でも安くつくれるもの)になっていきます。みんなの役には立つけれど、価格も下がり、いつでも他社品に取り替えられてしまう、ちょっと悲しい存在です。 シャープの液晶テレビも、カシオの電卓もそうでした。

 ただ、商品自体がコモディティになってしまっても、自社にオリジナリティがあれば話は別です。

 世界で毎年2億台が売られる電卓にしても、AMADAやメタフィスといったデザイン性の高いものは高値で売れますし、カシオは「インド向けに特化した電卓」で成功を収めました。

 インド特有の「桁区切り(*1)」「検算機能」に対応した商品です。インドの商習慣にいち早く、かつ徹底的に対応したお陰で、競合の倍の値段で年間100万台売れるようになりました。

『僕は君たちに武器を配りたい エッセンシャル版』瀧本哲史(講談社文庫)2013年

 瀧本哲史は『僕は君たちに武器を配りたい』で、人材のコモディティ化について論じ、6つのスペシャリティ(差別化された存在)を定義しました。

(1)トレーダー(営業)、(2)エキスパート(専門家)、(3)マーケター、(4)イノベーター(起業家)、(5)リーダー、(6)インベスター(投資家)

 そしてこれからの世の中では、(1)(2)はダメで、(3)~(6)だ、特に「業界の裏を読める人」である(6)の力を持て、と主張しました。まあ、みんながそこまですごくなくても大丈夫です。この6つの他にもスペシャリティはいろいろありますし、特に人間相手のサービス業では、人の存在価値は変わらず大きいでしょう。

 成功した(4)(5)の下で、しっかり働く人材も必須です。でももちろん、誰とでも取り替え可能な大量に存在するコモディティ人材になってしまっては、話になりません。自分をこれまでより少しだけ、取り替え困難で、少数しか存在しない価値ある存在にしていくことが、必要です。つまりそれは、自身をオリジナリティある、時間効率の高い人間に高めていくということなのです。

 それがきっと、みなさんの楽しい人生、変化に強く競争力ある(*2)キャリアにつながります。

 新刊『戦略読書』は、自らをコモディティにしないための、(個人的経験に基づく)戦略的な読書法です。「何を」「いつ」「どう」読むかの工夫によって、自身のオリジナリティを育て、維持することができます。情報収集や知識会得の時間効率が上がります。

 そしてそれは、この「複雑で困難に満ちた」世の中が、新しいものに見える視点や視座、視力をみなさんにきっと与えることでしょう。

*1 インドなど南アジアでは、千の位(3桁)で区切った後は2桁ずつ区切る。1千万の表記:インド式:1,00,00,000 米式:10,000,000 欧式:10,000,000
*2 最近はレジリエント(resilient)とも表現する。弾性や復元・回復力があること。