もはや絶滅人種である
「憧れの上司」
「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
「これまで、あるいは今の職場で、良い上司だと思われる方はいますか?」筆者は、ビジネスパーソンにインタビューするとき、必ずこう尋ねてみる。ほとんどの場合で、「はい」という答えが返ってくる。その話を一通り聞いた後、もう一歩踏み込んだ質問をしてみる。
「では、こんな人になりたいという、『憧れの上司』はいますか?」
そうすると、「はい」という回答数はぐっと減る。まあ、基準を厳しくしているので当然である。
だが筆者が気になっているのは、ここ数年、この質問に対する「はい」の回答が激減していることだ。統計をとったわけではないので、経験的に感じているだけではあるが、「良い上司だけど、大変そうだしああなりたいとは思わない」という回答が増えているように思う。要するに、ロールモデルとしての上司像を持てないでいる社員が増えているのではないだろうか。
ダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0』を持ち出すまでもなく、社員のモチベーション向上には、金銭などの「経済的インセンティブ」だけではなく、やりがいや認知といった「社会的インセンティブ」が重要であることは、読者の皆さんも経験でご存じのことと思う。
だが、こういった社会的インセンティブは、金銭などのように「いつ、誰から、どのようにもらっても同じ価値を持つ」ものではない。
例えば、上司から「よくやった」と褒められ、認めてもらうことは、一般には誰にだって嬉しい心理的報酬になるだろうが、それが「尊敬している上司」「憧れの上司」からだった場合と、「普段からよく思っていない上司」からだった場合には、嬉しさ、すなわち社会的報酬感に雲泥の差があることは簡単に想像できるだろう。