当面の緊急対策では、その必要性が以前から指摘されながら、先立つ財源不足から先送りされてきた施策が多いが、政府はとりわけ優先度の高い施策に絞り込んで、今年度の補正予算案に盛り込み、できる施策から実施に移していく方針だ。しかし、安倍政権は来年度以降から恒常的に必要となる膨大な従業者と恒久財源の長期安定確保へ、果たして布石を打てるであろうか。安倍政権は、来年春に策定する予定の中長期プランで、実現への具体的な道筋とともに、就業者と恒久財源の実現可能な長期安定確保プランを提示する必要に迫られる。先ずはお手並み拝見である。

政策ビジョンは逆風の中の旅立ち
「中期経済予測」に見る厳しい現実

 一億総活躍社会の実現性は、専門家になればなるほど手厳しいが、益財団法人日本経済研究センターがこのほどまとめた「中期経済予測(2015‐30年度)を例に挙げながら、気になる実現度を考えてみたい。

 同予測では、日本経済は2014年度の消費増税によるマイナス成長に続いて、「対外環境の悪化などから、足踏み状態が続いている。その背景には、構造問題が何ら解決されていないことがある。人口減少をはじめ、投資効率と生産性の低迷が日本を蝕み、経済破綻の影が忍び寄っている」と警告している。一億総活躍社会への実現は、いわば逆風の中の旅立ちである。

 同予測の分析によると、政策や企業の投資行動が今のまま続くと仮定した場合の「標準シナリオ」では、東京五輪が開催される2020年以降は、成長力が低下して、20年代後半にはマイナス成長に陥る。成長力を決める労働投入量をはじめ、資本ストック(機械やソフトウエアなど)や全要素生産性(TFP=Total Factor Productivity:技術進歩やビジネス上の創意工夫など)に好転する材料が見当たらないからである。

 30年度の労働力人口は、女性の労働参加率が今の北欧並みに改善しても、14年度に比べて500万人減る。急速な高齢化の進展で、労働力人口は50年までに2000万人も減る。資本ストックの成長力への寄与は、現在すでにマイナスで、今後の伸びも期待できない。TFPに至っては就業者の高齢化の加速に伴い、改善の余地が少ない。日本の労働生産性は1994年以来、19年間にわたり主要先進国7ヵ国中、最下位を続行中で、低迷が続いている。

 超高齢化社会の到来は、生産性のより低い医療・介護分野の就業者が急増し、最低でも500万人を増強して、全就業者の4、5人に1人が医療・介護分野に従事する見通しである。労働力人口が激減する中で、就業構造に占める医療・介護分野の就業者比率の急拡大は、日本の生産性をさらに押し下げ、マイナス成長に拍車をかけることになる。かくして「標準シナリオ」では、30年度を待たずに日本経済が失速して、一億総活躍社会の実現はさらに遠のくことになる。