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コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

マイナンバーが生活者の味方になるには?

韓国で試行錯誤の個人保護対策と日本の今後

趙 章恩 [ITジャーナリスト]
【第2回】 2016年1月8日
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マイナンバーが生活者の
味方になるには?

 韓国では、電子政府やネットバンキングのでのサービス利用の際に住民登録番号に加え、政府が認めた認証機関の発行する「公認認証書」という本人確認のための電子署名が必要であり、この署名がインストールされている端末からしかサービスにアクセスできない仕組みになっている。基本的にはネットバンキングの際に使うものなので、自分の口座のある銀行のサイト経由で無料で作成することができる(注2)

 ちなみに韓国の銀行は、ハッキング防止策の一環として、海外のIPアドレスによるネット経由での振り込みや、その他の手続きを利用できない仕組みを作っている。

 こうしたITによるセキュリティ対策以前に、韓国で個人情報漏えいが絶えなかった大きな原因は、何といっても、単に本人確認や会員管理がしやすいという理由だけで、サービス提供者が当たり前のように住民登録番号を登録させている点にあったことは否めない。

 前述のように、今では個人情報保護法の改正によって、法的根拠のない住民登録番号収集は禁止されたが、実はサービスを利用する側の国民にも、いつしか住民登録番号をオンライン上の登録欄に書き込むことに違和感がなくなっていたり、自分の番号が書かれた紙を人目につく場所に平気で放置したりということが行われていた。

 韓国が経験したこのようなことは、もしかしたら将来日本でも起こり得るかもしれない。マイナンバーは原則として一生変更できないので、一度漏れてしまうと収集がつかないことにもなりかねないだけに、その利便性をうまく活用しながら、かつ、個人情報を保護するにはどうしたらよいか、その戦略を慎重に立ててほしい。

 個人のレベルでも、最低限注意すべきことはいくつかある。例えば今後、企業の会員登録約款に「マイナンバーの活用に同意する」「マイナンバーを系列会社に提供することに同意する」といった項目が付されることもあるだろう。そんな時は、労を惜しまずしっかりと内容確認する必要がある。よく見ないで同意ボタンをクリックしてしまうと、マイナンバーがマーケティングに使用され、思いもよらぬ商品勧誘が来たり、その企業の系列会社からも、無用の広告が送られて来ることになるからだ。

 私は前回、「マイナンバーは、普通に、まじめに、忙しく生活している人の味方である」と申し上げた。

 さきほど、銀行の事例で、海外のIPアドレスによるネット経由の振り込みなどを受け付けない仕組みについて少し触れたが、実は、個人の出入国情報と口座情報が住民登録番号で紐づけられているがゆえに、口座の持ち主が海外に居ても、本人認証を経ればネット経由での振り込みや口座の開設・解約などは可能だ。

 このように、個人情報漏えいの防止策によるサービス機能の制限に対し、便宜のため一時的に「味方にする」のがマイナンバーの有効な使い方といえるのかもしれない。とはいえ、特にネットの世界では、本人の確認に完璧なセキュリティ対策というものはない、という認識も私は持っている。

 繰り返しになるが、「マイナンバー」の運用について、利便性と安全性の両立にさまざなま経験をしてきた韓国社会の経緯や、セキュリティ関連企業のサービスなども参考にしつつ、日本でもマイナンバーのメリットが最大に生かせるようにしてほしい。 


注2 公認認証書の取得:政府が認めた公認認証書発行会社は6社あり、これらと銀行が提携し、銀行のサイト上で公認認証書が取得できる。

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趙 章恩
[ITジャーナリスト]

ちょう・ちゃんうん/韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。
IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「ニューズウィーク」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

コリア・ITが暮らしと経済をつくる国

韓国の国民生活に、ITがどれほど浸透しているか、知っている日本人は意外に少ない。ネット通販、ネットでの納税をはじめとする行政サービスの利用、公共交通機関のチケットレス化は、日本よりずいぶん歴史が古い。同時に韓国では、国民のIT活用に対する考え方が、根本的にポジティブなことや、政府が規制緩和に積極的で、IT産業を国家の一大産業にしようとする姿勢などが、IT化を後押ししていることも事実である。

一方の日本は、どうして国を挙げた大胆なIT化の推進に足並みがそろわないのか。国民生活にITが浸透している韓国の先行事例を見ながら、IT化のメリットとリスクを見極めていく。

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