先日、今年百周年を迎える日立製作所の発祥の地、日立事業所を訪れる機会があった。電力用大型タービンなどを開発、製造する同社のマザーファクトリーである。

 この事業所には数年前にも訪問したことがあるが、事業所の雰囲気が少し変わっていることに気が付いた。前回訪問した時は事業所全体が重苦しい雰囲気に包まれていたのだが、今回お会いした幹部や従業員の方々の表情には、なぜかそこはかとない明るさが漂っていた。抽象的だが、事業所の空気感が軽やかになったと感じたのだ。

“旗”が掲げられたことによって
現場の空気が変わった

 日立はここ3年連続で最終赤字を計上。2009年3月期には7873億円という巨額の損失を出している。日本を代表する企業のひとつである日立の低迷が、停滞する日本経済の象徴のようにとらえられてもいる。

 業績面ではまだまだ苦しい局面が続く中で、なぜ現場の雰囲気、空気は変わりつつあるのか。それはこの4月に新社長に就任したばかりの中西宏明社長から、明快なメッセージが打ち出されたことがひとつの理由ではないかと、私は思っている。

 中西新社長は就任間もなくこれからの日立の方向性として、社会インフラ事業や情報インフラ事業からなる「社会イノベーション事業」へ注力すると、明確に打ち出した。その中身が具体的にいかなるものかは、これから注視する必要があるが、少なくともこれからの日立の「背骨」が何であるかは見えてきた。

 東芝や三菱電機が「選択と集中」をいち早く実行し、「総合電機メーカー」という看板を下ろしたのに対し、日立は最後まで「総合」にこだわった。しかし、事業特性が大きく異なる、あまりに多岐に渡る事業群を束ねていけるだけの体力や経営技術は、残念ながら日立にはなかった。色々な事業は営んでいるが、どの事業も中途半端で、「チャンピオン」にはなれないという事態に陥ってしまっていた。

 そうした中で、新社長から「社会イノベーション」というキーワードが打ち出された。結果が出るかどうかはこれからの努力次第だが、“旗”が掲げられたことによって、現場の空気が変わった。私の眼にはそう映ったのだ。