ドル安・円高が一段と進みそうな情勢だ。米国の景気悪化、金利低下につれて経常赤字国通貨のドルは下落し、黒字国通貨の円は上昇する。この景気循環に沿った基本構図は当面変わらない。サブプライム問題に始まる金融の混乱はドル安・円高をさらに推し進める。

 不安定な経済・金融環境にあって、ドル・円は2008年1~2月中105~108円台と底堅かった。じつはこのもちあい相場の為替需給の背後に大きな円高リスクが見える。

日本の投資家別対外証券投資フロー

 上の図で対外証券投資は最近一見して増えており、それが円高を抑止したとの指摘もある。しかしそこには誤解がある。最大の買い手「銀行」は海外市場での債券ディーリングばかりで、為替取引を伴わない。「信託(銀行)」の買いは主に年金のパッシブな海外株式投資であり、完全に為替ヘッジされ円相場には中立的だ。

 個人マネーの「投資信託」は勢いを失った。円高の影響に加え、金融商品取引法の施行でリスクの説明が面倒になった投信の売り込みに業者が躊躇している。その代わり「証券(会社)」に含まれる個人向け外債販売が増えている。個人マネーは層が厚く、円高で萎縮するばかりではない。

 2008年1~2月の円に絡む為替フローが全般に鈍く、バランスしていた。1995年にドル・円が80円を割れたときは、機関投資家が決算での損失計上をいやがり外貨売りに殺到した。しかし今、時価会計の導入に加え、そもそも彼らは売るべき外貨資産をここ数年の円安下でも増やしていない(下の図)。

投資家別対外証券投資と外国人の日本株投資

 特筆されるのは外国人だ。2005年後半頃から旺盛な日本株投資(円買い)の一方で、既存の日本株購入分も合わせて為替ヘッジ(円売り)を始め、むしろ円安を促した。外国人が日本株を売ると、今度は為替ヘッジの巻き戻しで円高を招いた。しかしドル・円が105円付近まで下がると、為替ヘッジはずしは一服し、日本株売却は素直に円安圧力になっている。

 他方、最大の為替関連ポジションは個人、未上場企業などの外貨建て投信、外債、仕組み債、長期輸入予約商品だ。彼らは円高で圧迫されてもすぐに反応することなく、ポジションを抱え込んでいる。

 円買いは乏しく個人が円高に感応的でないぶん、ドル・円は1~2月に膠着した。もっともトレンドはドル安・円高。個人らが巨額の為替ポジションを抱える以上、深刻さを増すショックに対する抵抗力は怪しくなる。春に向け100円割れ懸念で保有外貨資産の一部が処分されると95円への「円高なだれ」注意報、米リセッション入りともなれば警報級の円高なだれがありうると警戒している。

(通貨ストラテジスト 田中泰輔)