日本経済の成長を図るべきは当然だ。歳出カットもむろん大胆にやらなければならない。デフレ脱却に向けた取り組みも必要だ。だからといって、増税論議を「先送り」してはいけない。「増税論議はその後で」はもうダメだ。
1990年代以降、日本は先送りを繰り返して、ここまで借金を積み重ねてしまった。国と地方の長期債務残高はじつに862兆円(3月末)にのぼる。
意外と誤解されているのだが、今叫ばれている「財政再建」は、この長期債務残高を大きく減らそうというのではない。とても無理だ。残高自体はこの先も増えてしまう。しかし、10年後くらいには対GDP比で徐々に減っていくようにしよう、というものだ。
「10年後から徐々に比率を減らす」なら、大した苦労なしに何とかなりそうな気もする。だが、それは間違いだ。
日本経済がデフレから脱却し、潜在的な力よりも高い経済成長を実現できたとしても、名目成長率と金利が同じように上昇し、財政収支は悪化する。経済が良くなっても財政赤字は増えてしまう。日本がかくも借金をふくらませきてしまったためだ。
日本では新規国債は60年かけて償還される。今年発行した国債の償還資金は、60年後の人たちも税金などで負担することになる。ツケを回すわけだ。
消費税などの増税はみなイヤなのは当然だろう。経済活動へのマイナスも避けられない。だが、多くの人も「将来の世代の負担を、これ以上重くしてはいけない」と感じているのではないか。
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本特集は、選挙戦の争点となった消費税について、目をそむけずにきちんと考えるための材料である。
Part1では消費税をめぐる混迷ぶりを明らかにする。歴代内閣が二の足を踏んできた消費税というタブーに、菅直人首相があえて踏み込んだことは評価すべきだが、足元の民主党内においても抗争の具とされているのが実情だ。
また、財政健全化目標を掲げたこともそれ自体は評価できるものの、目標と現実とのあいだに、あまりに大きな乖離がある。穴埋めする具体策もなく、本当に実現できるのか、大きな疑問符が付く。
Part2は、消費税論議の出発点となるべき、日本財政の「裸の姿」を解説する。5%消費税増税では全く足りないのが実態だ。
Part3では、消費税はどうなるか、問題点はなにかを提示する。菅首相は、低所得者の消費税負担を軽減する軽減税率や給付付き税額控除を検討すると表明しているが、それには多くの難題がある。
また、消費税だけではなく、所得税、資産課税などの実質増税もいずれ必要であることを真摯に訴えてはいない。
消費税と財政問題はいったいどうなるのか? そのウソとホントを明らかにする本誌を、ぜひ手にとっていただきたい。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 小栗正嗣)