会社と裁判で戦うときに
覚えておきたいこと

 このように、会社に訴えを起こす労働者は、必ずしも会社に戻りたいと考えているわけではありません。感覚的には、100人いたら95人くらいは「お金さえもらえれば良い」「この会社では二度と働きたくない」と心の底では思っているのではないでしょうか。しかしながら、訴訟等で争うときには、表面上は会社に戻ることが大前提となります。慰謝料さえもらえれば良いという戦い方では、トータルで勝ち取ることのできる金額が下がるからです。

 解雇無効の争い方は2通りあります。

 1つは「解雇は無効でまだ雇用契約は続いているのだから、今までの給料を全部支払ってくれ」というものです。時間がかかればかかるほど過去の給料の分が増えていくので、金額は大きくなります。単純計算で言えば、訴訟が終わるまでに1年かかったら1年分の給料がもらえるわけです。

 もう1つは、解雇時に次の会社が決まっていたり、すでに働いていたりする場合にとられる方法で、「不当な解雇をされたことによって精神的に傷ついたから慰謝料を請求する」というものです。こちらは、慰謝料の金額はそれほど多額にはなりません。転職先を探すのに通常要する期間、すなわち給料の3~4ヵ月程度と考えられています。しかしそうなると1年間訴訟を続けて1年分全部支払わせるほうが金額が高くなるということになります。

 つまり、建前でも「会社に戻りたい」という前提で訴えを起こすほうが、得られる金額が上がる可能性があるというわけです。

神内伸浩(かみうち・のぶひろ)
労働問題専門の弁護士(使用者側)。1994年慶応大学文学部史学科卒。コナミ株式会社およびサン・マイクロシステムズ株式会社において、いずれも人事部に在籍社会保険労務士試験、衛生管理者試験、ビジネスキャリア制度(人事・労務)試験に相次いで一発合格。2004年司法試験合格。労働問題を得意とする高井・岡芹法律事務所で経験を積んだ後、11年に独立、14年に神内法律事務所開設。民間企業人事部で約8年間勤務という希有な経歴を活かし、法律と現場経験を熟知したアドバイスに定評がある。従業員300人超の民間企業の社内弁護士(非常勤)としての顔も持っており、現場の「課長」の実態、最新の労働問題にも詳しい。
『労政時報』や『労務事情』など人事労務の専門誌に数多くの寄稿があり、労働関係セミナーも多数手掛ける。共著に『管理職トラブル対策の実務と法 労働専門弁護士が教示する実践ノウハウ』(民事法研究会)、『65歳雇用時代の中・高年齢層処遇の実務』『新版 新・労働法実務相談(第2版)』(ともに労務行政研究所)がある。
神内法律事務所ホームページ http://kamiuchi-law.com/