iPhoneに採用されても、
二の手三の手を打ちつづけるガラスメーカー

 企業の経営陣が学ぶべきは、特殊ガラス材メーカーであるコーニングの戦略だろう。同社が開発した薄さ、軽さ、耐損傷性を兼ね備えたゴリラガラスの破壊的技術は、累計15億台以上ものスマートフォンやタブレットのディスプレイなどに用いられてきた。

 1952年、ニューヨーク州北部にある自社の研究施設で強化ガラスの実験を行っていたコーニングは、高熱で焼いたガラスに優れた耐損傷性があることを発見した。ところが当時、できあがった強化ガラスをうまく製品化する方法が見つからず、結局はお蔵入りになってしまう。そして2007年、コーニングと接触したスティーブ・ジョブズは、「ディスプレイを保護する、耐久性に優れた高品質のガラスを探している」と告げた。発売を目前に控えたiPhoneに使用するためだという。コーニングは55年前にお蔵入りにした強化ガラスを引っ張り出して、数ヵ月のうちに、その技術と自社工場とを使ってゴリラガラスの大量生産に成功した。

 それは目覚ましい成果を生んだ。2013年には、モバイル機器からハイエンドTVまでの750アイテムを超える製品に活用され、2007年に2000万ドルだった売上げは、わずか5年後の2012年には10億ドルに達した。しかもコーニングは、顧客の抱える課題や破損の問題を詳細に分析して、絶えず質の向上に務め、オリジナル製品の20%もの強度を持つゴリラガラス2.0の発売にこぎ着けたのだ。

 コーニングは、さらに優れた新バージョンを開発中である。だが、CEOのウェンデル・ウィークスは、ゴリラガラスがいつまでもトップの座に君臨できるとは考えていない。ディスプレイ技術に革命をもたらすために、さまざまな市場実験が活発に行われているからだ。有機発光ダイオード(OLED)もそのひとつである。この指数関数的技術はよりよく、より安いうえに、高コントラストで高解像度でもある。柔らかくて折り曲げられるため、くるくると丸めて持ち運べる日も近いと予想する専門家も多い。

 OLEDがゴリラガラスに与える脅威を、コーニングも熟知している。それどころか、コーニングはその市場実験を積極的に行ってもいるのだ。2013年には、ロータスガラスと呼ぶOLEDディスプレイをサムスンと共同開発した。今日、ゴリラガラスがどれほどの成功を収めていようと、現行市場が縮小する日はいつか必ず訪れる。そのときに起きる打撃を緩和するためである。

 つまりビッグバンのまっただ中にありながら、コーニングはコア技術とその製造工場の第2、第3の使い途を計画しているのだ。2013年には、自動車のフロントガラス用の特殊ガラスを開発中だと発表した。より軽量のために燃費効率の向上が見込める一方、破損やひび割れにも強いという。(同253-255ページ)

 いま成功を享受している製品やサービスがあっても、それに甘んじることなく、「次の一手」を模索しつづけること。それこそが、急激な市場飽和に巻き込まれることなく、イノベーションを起こしつづける企業の条件なのだ。(構成:編集部 廣畑達也)

次回は、崩壊に巻き込まれた企業が行き着く第4ステージ「エントロピー」からいかにして脱出するかについて、富士フイルムの戦略を例に検証する。3月22日公開予定。