購買部ではなく、生産現場に試作機を持ち込み圧勝するキーエンス
現代ビジネスで「飛び道具」(弓矢)といえば、インターネットの普及が第一にあげられます。若い世代は最初に手元のスマホで商品検索をすることで、検索結果の上位表示される企業とそうでない企業は、戦う前から大差がつくことになっています。
しかし「攻撃準備砲撃」はなにも、インターネットの影響力に限りません。大阪に本社を置くキーエンスは、自動制御機器、計測センサーなどの優良企業ですが、同社の直販営業部隊は、取引先の購買部ではなく、生産現場に足を運んでいます。
キーエンスの製品は工場で使うセンサー類なので、生産現場の困りごとを営業部隊は直接聞き取り、一定の拡販が見込める課題を発見すると、最速で試作機を作成。顧客の生産現場に置いて使ってもらうことで販売を成功させているのです。
「デモ機を置いてきたら、90パーセント以上受注が決まる。しかも、無競争です」(名和高司『100社の成功法則』より)
試作機をつくるには、その課題解決が複数他社に売り込める需要を確認することが条件です。キーエンスはクレポという製造子会社で試作機を素早くつくる体制を整え、生産コストを最小化する方法もクレポで探索して、下請け企業に製造依頼しています。結果、粗利80%という驚異的な数字を誇り、社員の生涯給与は日本国内でも常にトップクラスに位置しています。
本当の必要性を理解している生産現場に矢を射込み続けることで、キーエンスは他社が太刀打ちできない優位性を、売り込みの前段階で確立しています。この差は営業マンの個人スキルでは対抗できず、集団の戦い方から生まれる優位性であり、中国王朝や西欧の騎士団に圧勝したモンゴル軍の戦闘スタイルと重なります。
チンギス・ハンの軍団は騎馬民族特有の「疾風のような行軍速度」にも強みがあり、顧客への試作機を最短でつくるキーエンスの即応力とも共通点があるといえるでしょう。
(第7回は4/6公開予定です)