過去から繰り返し、専門家が指摘しているにもかかわらず、日本経済に関しては、少なからぬ“常識の非常識”がはびこっている。
例えば、「日本は貿易立国である」こと。「輸出依存度が高い」こと。そして、「内需依存度が極めて低い」こと――。
意外だと驚かれたあなたは、常識の非常識に囚人である。
といって、マスメディアはむろん、えらそうな顔はできない。景気回復が2002年から5年以上も続いて戦後最長となった第一の要因に、輸出の拡大を挙げた。リーマン・ショックで日本経済が大打撃を受けたのは、世界的に需要が激減して輸出が急減したからだ、と解説した。したがって、日本経済の安定的成長を図るには、輸出依存から内需依存へ転換を図らなければならない、と主張した。
右の図表を見て欲しい。先進主要国とアジア三カ国の5年間の平均成長率とその内訳を示した。期間は2002年から2007年まで、日本の戦後最長の景気回復期に当たる。作成者は小峰隆夫・法政大学教授である。小峰教授に筆者(辻広)が、テレビ番組(朝日ニュースター『ニュースの深層』7月30日)でインタビューした際に使用したものだ。
図表を解説する前に、用語の定義を明確にしておこう。経済は「需要」と「供給」から成り立っている。一国の総需要=「国内需要+輸出」であり、総供給=「国内総生産(GDP)+輸入」である。つまり、輸出は需要の一部であり、国内需要とともに総需要を構成している。他方、輸入は供給の一部であり、国内総生産とともに総供給を構成している。とすれば、総需要に占める輸出の比率が「輸出依存度」となり、総供給に占める輸入の比率が「輸入依存度」になる。
図表によれば、日本の輸出の伸び率は9.3%で確かに高いが、輸出が総需要に占める比率「輸出依存度」は14%で米国に次いで低い。輸入が総供給に占める比率「輸入依存度」は12.9%で、最も低い。他の先進主要国もアジアの国々も、日本よりはるかに「輸出依存度」も「輸入依存度」も高い。輸出と輸入を存分に活用しているのだから、彼らは貿易立国に成功しているといえる。日本はこれでは、「非貿易立国」である。そして、輸出依存度が低いのだから、逆から見れば、「内需依存度」が高いということだ。
もうひとつ、日本の際立った特徴がある。輸出の伸び率が輸入の伸び率よりはるかに高い。つまり、経常収支の黒字額が大きいということである。
私たちは、日本を貿易立国だと思い込んでいる。それはさまざまな要因が作用しているのだろうが、いつしか、貿易=輸出であり、輸出さえ伸びていればそれは貿易立国であり、経済は成長する、輸入はあまり重視しなくていい、という思考回路を、身につけてしまったのではないだろうか。