クリエイティブ集団をつくるためのダイバーシティ

入山 クリエイティブ集団を何百人の組織にするときには、採用側の目利きの能力みたいなのが必要ですよね。佐渡島さんにはそれがあって、かつ、社員を育てる力もある。そういった能力を、コルクのほかのメンバーにも共有する必要があると思うんですよね。

 でも、そういうのは、かなり暗黙知によるところが大きい。自分の経験でわきあがってくるものだったりとか。そういうことは、今後どうしていくつもりですか?

佐渡島 そこに、いま、とても苦労していて。ちょうど、入山先生の本『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)にもあったダイバーシティの観点がすごく必要だなと思ってはいるんです。

 たとえば、コンテンツをつくっていくときに、僕と似たようなコンテンツが好きなやつを入れちゃダメなんですよ。だから、僕が好きじゃないタイプのものを好きっていう人間を入れていかないとダメだなと思っていて、実際に入れているんですけど。でも、そういうタイプの人間と、僕の常識がずいぶん違っていたりもするから難しいんですよね。

入山 価値観が違うのは難しいんですよね。

佐渡島 そう。「情報共有が必要だよね」と思っていても、当人はそういうことが必要だと思っていなかったりする。そもそも必要じゃないと思っている部分を、成長させていくっていうのは難しいですよね。しかも、クリエイティブなまま、人を成長させないといけない。そういう「共鳴」が、社内に起きるようにしたいなと思っています。

入山 僕はバラバラの人を入れるっていうダイバーシティは、大事だと思っています。ただ「キャラクターはバラバラだけれど、ビジョンが揃ってる」っていうことは重要。やりたいことっていうのがある程度揃っている集団になればいいのかなと思っています。

「感情を売る」ことができる会社になる

佐渡島 コルクでは漫画家のエージェントとか、小説家のエージェントとかいう言い方をしないんです。で、「クリエイターのエージェント」と、ずっと言ってるんですね。

 最初僕は、クリエイターのことを、「ストーリーをつくれる人」って定義していたんです。でも、最近では、「感情を他者に生み出せる人」っていうふうに、定義し直してるんですね。

入山 うん、なるほど。

佐渡島 そうすると、ストーリーだけでない、たとえば、作品の中からグッズをつくったときに、そのグッズで感情がわき起こるかどうかということがポイントになる。

『宇宙兄弟』のグッズでヘアピンをつくったんですけど、そのヘアピンって、登場人物が気持ちをピシッとするとき、つけるヘアピンなんですよ。だから、「ピシッとする気持ちとセットで」売れたんです。

 一方で、その作品の中から出てきたデザインのものをそのまま売ったときは、あまり売れなかった。世の中に商品もたくさんあるし、会社もたくさんあるけれど、「感情を売れる会社」ってあまりなくて。映画も漫画も小説も、泣きたいとか感情を予想させて売ってるんだけれども、結局まだストーリーでしか売れてないんですよ。

入山 たしかにそうですね。

佐渡島 はい、感情を中心にビジネスを展開していけば、ストーリーで売ったあとに、先ほど言ったライフスタイルのところまでも売れるようになる。

 たとえば、『宇宙兄弟』的なものに囲まれていると、常に前向きでいられるようになるとかね。身のまわりのものが変わると、生活も全然変わって、ハッピーになったみたいなことを、言い出す人がいてもおかしくないんじゃないなかなと思うんですよね。

入山 たしかに、感情という軸があればライフスタイルにも浸透しやすいですね。

佐渡島 それで実は、僕が社員を選ぶときに重視しているのが、「感情の起伏が激しそうだ」ということなんです。そういうやつが、自分の感情を丁寧に見ていくと、感情についてわかるようになるから。そうすると、他人の感情もうまく引き出せるようになるんじゃないかなと、思っているんです。

入山 感情に敏感な人ってことですね。

佐渡島 そうです。若い人は、感情の質自体というか、感情の目盛りは雑なんですよ。パワーや感情はあるんですけど、その感情の感度が鈍感。でも、いまは鈍感で雑なやつが、経験を経たら、目盛りが繊細になっていくのかなと。

 だからいまは、感情の幅がでかいやつを採ってるんです。だけど、目盛りが雑で……ときとして、作家が嫌がるだろう、みたいなことをやってしまったりする。いまは、いろいろ苦労してるんですよね。

入山 おもしろいですね。そういう意味では、アイドルの商売の仕方って、ちょっと近くないですか。「ジャニーズのグループのメンバーが仲がいいから好き」という女性がいるじゃないですか。それは、その背後にあるストーリーみたいなのが見えるから、感情移入できて好きになるという。

佐渡島 まったくそうだと思います。だから、ジャニーズだけが、ファンクラブの仕組みが圧倒的によく機能している。