「後期高齢者医療制度」への激しい批判をかわすべく、政府・与党は見直し作業に入った。だが、低所得者の保険料の負担軽減策が中心であり、根源的な欠陥には手をつけそうもない。

  4月16日の当コラム「後期高齢者医療制度が“現代の姥捨て山”と批判される本当の理由」には、大きな反響があった。寄せられた多くの感想には、「「この新制度は保険ではない」ことを知って驚いた」と書かれていた。

 詳しい解説はそちらを読んでいただきたいが、要点だけ記しておこう。

1) この新制度に関するどの法律を見ても、保険であるという表現は一切出てこない。「後期高齢者医療制度」は、その表記とおり『制度』であって『保険』ではない。

2) 保険であれば、運営責任者である「保険者」が存在する。国民健康保険や介護保険は、市町村が保険者である。保険者はその保険の財政責任を負わなければならない。逆に言えば、保険者がいなければ、その運営主体は財政責任を負わない。財政責任を負わなければ、医療費抑制に努力するインセンテイブなど働かない。

3) 保険者不在の欠陥制度になったのは、厚生労働省の強い要請にも関わらず、財政責任など負いたくない市町村が保険者になるのを嫌がったからである。

4) 財政責任を負わず、保険料は年金からの天引きだから、保険料徴収の苦労もなく、コストもかからない。したがって、保険料抑制のインセンテイブは二重に働かない。運営主体が「広域連合」という“架空の地方自治体”であることを加味すれば、三重の無責任体制といってもいい。

 ここで、保険者がいないことによって制度設計が歪んでしまった事例を、もうひとつ挙げよう。

 当たり前のことだが、医療費総額は、診療報酬(価格)×回数という掛け算である。医療費の抑制は、保険者である市町村が地域ぐるみで健康維持管理活動を展開し、治療だけでなく予防の観点にも重きを置き、診療回数を少なくするのが正道であろう。

 だが、保険者ではない広域連合では回数を減らそうというインセンテイブは働かない。その欠陥を補うためであろう、厚生労働書は診療報酬という価格に手をつけた。実は、この新制度の開始と同時に、75歳以上の人びとには「定額制」というまったく別個の診療報酬体系が導入されたのである。