三菱重工業と日立製作所が、合弁会社による南アフリカでのプロジェクトの事業評価損失をめぐり対立している。三菱重工は約3800億円を請求したが、日立は支払いを拒否した。両社の主張が平行線をたどっているばかりか、損失金額がさらに膨らむリスクすら浮上しており、事態は泥沼の様相を呈している。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

「三菱重工業と日立製作所との提携関係の破談などあり得ない。動揺せず、今まで通り仕事をしてください」

 5月9日、三菱重工と日立が3800億円の支払いをめぐって対立していることが明らかになると、両社が火力発電システム事業を統合してできた、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)に激震が走った。西澤隆人・MHPS社長は、緊急招集した幹部だけでなく、社員2万人に一斉メールで冒頭のメッセージを伝え、火消しを急いだ。

 実際に、MHPSでは製造現場を中心に動揺が広がっていた。南アフリカの火力発電所建設プロジェクトの採算悪化は周知の事実だったが、親会社同士が公然とけんかするのは想定外だったからだ。

 問題のプロジェクトは、2007年に日立が南アの電力会社から合計5700億円で受注した。その際に政権与党の関連企業に不適切な支払いがあった疑いで米証券取引委員会(SEC)の調査を受け、日立が1900万ドル(約21億円)の民事制裁金を支払った、といういわく付きの案件だ。

 14年のMHPS発足時点で、既に損失が見込まれており、その負担をめぐって三菱重工と日立の協議が難航。MHPS設立の契約締結が遅れるほどの「一番の問題案件」(MHPS幹部)だった。

 結局、三菱重工と日立はプロジェクトが進捗した後、収支などを見極めた上で、日立側が調整金を支払うことで合意した。だが、その金額算定法に対する両社の考え方の溝は埋まっていなかった。

 三菱重工は今回の請求について、「現時点で最低限払ってもらわないといけない額だ」(宮永俊一社長)と強気の構え。さらに、プロジェクトの損失が膨らめば、日立への追加請求すらあり得るとの立場だ。一方、日立の東原敏昭社長は「損失は14、15年度に引き当て済み。今期は織り込んでいない」としている。追加的な負担は想定しておらず、両社の主張は真っ向から対立している。

今月の決算会見では、三菱重工業と日立製作所の幹部が南アフリカの火力発電所建設で生じた損失の負担割合について主張を展開したが、水掛け論に終始した Photo:REUTERS/アフロ、AFP=時事

 両社関係者とも、「法廷闘争にはならない」と口をそろえる。だが、「工事の終わりが見通せない現状では、踏み込んで交渉できない」(三菱重工関係者)のが実態だ。

 焦点となるのが、MHPS発足後に発生した損失の負担割合だ。三菱重工は、日立時代に交わした受注契約の稚拙さなど、損失の原因が日立にあるものは日立が負担すべきとの立場。一方の日立は、MHPSがプロジェクトを遂行している以上、三菱重工も相応の負担をするべきという立場だ。