トヨタ自動車で、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」やF1などのゼロイチ・プロジェクトで経験を積んでいた林要さんに転機が訪れます。孫正義氏から「ウチに来い。ロボットをやってほしい」と直接声をかけられたのです。ロボットは門外漢だし、トヨタで積んできたキャリアもある……。だけど、その瞬間に「やります!」と即答。ほとんど動物的な判断だったといいます。なぜ、”無謀”ともいえる判断を瞬時に行うことができたのか?林要さんの著書『ゼロイチ』から、その背景にある「思考法」を抜粋してご紹介します。
深く考えすぎずに、まず手を挙げる
謙虚であることは美徳です。
謙虚な気持ちを養わなければ、組織のなかでゼロイチを実現することはできません。会社でのあらゆる仕事はチームプレイ。相手の立場を尊重し、相手の意見に真摯に耳を傾ける姿勢がなければ、誰も力を貸してはくれないからです。
ただし、注意も必要です。謙虚という言葉が自分の「逃げ場所」になってしまうことがあるからです。ゼロイチとは、いわば”分不相応”なチャレンジ。だからこそ、失敗するリスクも高い。しかしそこで、「控え目でつつましくなければならない」と自分に言い訳しながら、”安全地帯”にとどまる選択をしてチャレンジから逃げてしまうことがあるからです。
これは謙虚の誤用。むしろ、僕は、自分のキャリアについては、図々しいくらいでちょうどいいと思っています。
振り返ってみれば、僕はずいぶん図々しい人間だと言えます。
「やりたい!」と思ったら、深く考える前に手を挙げてきました。
たとえば、トヨタ時代のF1。当時、僕は英語がまったくできず、TOEICは248点という”論外”の成績。F1への応募基準をまったく満たしていませんでしが、それでも厚かましくF1行きを希望していました。努力してから希望を言うのが謙虚な姿勢でしょうから、「図々しい」を通り越して、「身の程知らず」と思われても仕方ありません。
さすがの僕も、その認識はありましたが、行きたい気持ちを抑えて、心の内に留めておくことができない。人からどう思われようが、それは、その人が思うこと。ダメならダメと蹴ってくれればいいわけで、誰かに迷惑をかけるわけでもない。遠慮するのは、受け入れられないことを恐れて格好をつけているだけなのかもしれません。むしろ、ダメ元でも希望を表明しておかなければ、その願いが叶えられる可能性は限りなくゼロに近づきます。だから、手を挙げなければ損だと思うのです。
そして、このとき図々しく手を挙げていたからこそ、ひとりの役員の目に留まり、僕は、F1への切符を手にする幸運に恵まれたのです。