将来への不安こそが
消費抑制の元凶である

出口 消費に関わる話で思い出したのですが、少し前に面白いことがありました。
 同期と酒を飲みに行ったのです。5000円飲み放題で、結構美味しい店だったのですが、誰かが「最近は3000円でも美味い店がある。俺たちも60代後半でいつまで生きるか分からない。次回の幹事は知恵をしぼって、もっと安くてうまい店を探そうぜ」と言い出したのです。みんな、そりゃそうだと盛り上がったのですが、ちょっと待て、と。日本経済の6割は消費が支えているのに、5000円の飲み代を3000円にしたら、景気が4割ダウンします(笑)。だとすると、「俺たちは老い先短いから、次回の幹事は8000円で豪勢にやって貢献しようぜ」というのが僕たちの世代がとるべき正しいスタンスですよね。

井堀 確かに(笑)。高齢世代が消費意欲を活発にすると、経済も活性化するでしょう。みんなが5000円ではなくて8000円使うようになると、景気は6割ぐらいアップするのかな。

出口 ただ、一番の問題は「いつまで生きるか分からないから、使ってはいけない」という不安感ではないか、と思うのです。不安感が間違った行動につながっている。たとえば、消費税を上げるのと同時に、公的年金保険を保証するとか定年制を廃止して長期間働けるようにする等、貯めこまなくても何とかなりそうだという安心感を与えないと、消費は永遠にしぼんでいきます。
 財源をきちんと示して安心感を与えるほうが、むしろ景気をよくするのではないかと思うのです。

井堀 将来への不安があると、家計は貯蓄に傾きますよね。それは、若い人にも同じ事がいえます。特に非正規社員の方は将来の雇用不安がありますし、正規社員でもベースアップは昔より不安定です。しかも老後の社会保障も不安だとなれば、自助努力しかないと考えて、益々消費を控えるようになります。

出口 若い世代の年代別所得をみると、20代の年収は平均300万円程度と本当に厳しい状況ですから。その結果、子どもは生まないという選択肢も出てくるのでしょう。

井堀 だから、将来に安心を感じてもらえるよう社会保障制度が維持可能だと示すことが重要ですが、政府が示す見通しは楽観的すぎて信頼性がないのが問題です(笑)。

楽観的な政府の見通しは
不安を増長するだけ

出口 アベノミクスの最初の3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)では、向こう10年間の名目経済成長率3%を目指していて、みなそれぐらいになればと期待をしていました。でも実際は3年間で1.7〜1.8%、実質成長率でみたら0.6%程度。こうした結果と目標の落差をみると、やはり政府の推計は楽観的なんじゃないかと、かえって不安になりますね。

井堀 あの成長率3%という目標も、2020年までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)を均衡させるという目標達成のために、どのぐらいの税収が必要か逆算して掲げたようなところがあります。要するに、政府の見通しというのは、大きな政策目標を前提として、それに数字を合わせる傾向があり、実際より高めに据えがちです。だから楽観的かつ非現実的な数字が出てきて、国民としては信じられなくなります。

出口 達成できそうもない目標を掲げられると、企業でも同じことですが、みんなシラけてしまいます。少し背伸びしたぐらいの目標なら、みんなの成長を促しますが、あまりに高すぎると、はなから「できるわけがない」と思われてしまいます。