年金の負担と給付を「見える化」するには
実の親子間で融通する個人勘定が効果的

井堀 そうですね。敬老パスは行政から一方的にもらうから、有難く受け取っておきましょうとなるんですが、お金を出す局面においては、自分の孫はかわいくても、孫世代“一般”に対する支出となると別なんですよね。今の年金制度だと、勤労世代が“政府”にお金を納めているから、できるだけ出したくないと思ってしまうし、それを政府から高齢者に分配するので、高齢者の側も“政府”からお金をもらうなら沢山もらいたいと思ってしまいます。

出口 負担と給付の関係が見えづらくて抽象的なところに問題があるのですね。

井堀 はい。その年金環境を見える化するには、個人勘定化が効果的ではないかと本書で紹介しました。つまり、実の親子間で扶助する個人勘定の賦課方式と、基本的にみずからの老後資金を貯蓄・運用で貯める積立方式という2つの方策です。個人勘定賦課方式で勤労者が払った保険料が自分の親にいくことにすれば、親のほうは子どもや孫が経済的に苦しいのを見て取ると自発的に返すでしょう。逆に、子ども世代も親が大変ならお金をあげましょうと自然に思うので、ミクロの調整が効きやすくなります。

出口 ただ、マクロで見たときに若い世代が減ってお年寄りが増えたら、賦課方式でも積立方式でも最終的にはあまり変わらないのではないでしょうか。

「積立方式の収益率は利子率なのでマイナスにはならない」と井堀利宏教授

井堀 積立方式ですと、自分の老後のためにみずから積み立てるので、人口が減ったとしても自分の老後については手当しておけます。

出口 でも、老後に積み立ててあるのが国債など金融資産だとすると、それを誰かに売って現金化する必要があります。仮に3000万円積み立ててあるうちの100万円を現金化したいとします。若い世代の年収が200万円しかなければ、100万円なんてとても買えませんから50万円しか現金化できない−−−−そんな事態にはならないでしょうか。結局、積み立ててあっても、経済のパイが小さくなっていれば減額するほかないので、そこは積立方式でも賦課方式でも同じではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

井堀 確かに、そういう側面はありますね。ただし、賦課方式の収益率は人口増加率なので基本的にマイナスになりますが、積立方式の収益率は利子率なのでマイナスにはならない。日本は今マイナス金利ですけど(笑)、海外での運用も可能ですから、中長期的にマイナスにならないよう運用することは可能だという理屈になります。

出口 うまく運用できればいいですけれど、世界の中央銀行の多くがマイナスないしゼロ金利を採用していますから、運用コストやそれをチェックするコストを鑑みると、賦課方式でもあまり変わらない気がします。

井堀 確かに、今後は日本だけでなく先進国全体で経済的な成長が望めないとすると、高い金利は想定できないですよね。その点から、積立方式でも高い収益率は期待しづらいのですが、それでも海外の運用などを絡めれば、日本国内の人口減少の影響は直接効いてこないはずです。

出口 しかし、それは日本が将来的にも移民を受け入れないという前提を置いての話ですね。

井堀 移民は非常に重要な選択肢だと私も思うのですが、現実的なシナリオを考えると移民がどんどん増えるとは考えにくい。年金の場合は、労働市場に入って効果が出るまで20年かかりますから、タイムラグもかなりありますよね。