良くも悪くも、「損得半々」では、世の中は動きにくい仕組みになっているのだ。その故に世の中が安定していいのかもしれないし、世の中がいい方向に変わりにくいのかもしれない。

 筆者の思うに、既存の社会保障システムからベーシックインカムに移行するためには、どんなに短くても10年、現実的には20年くらい、移行プロセスに時間をかける必要があるのではないだろうか。

 20年かける場合は、1年目にベーシックインカムを予定額の5%、既存の社会保障給付を95%、2年目にはベーシックインカムを10%で既存の給付を90%、といった調子で徐々に移行する要領だ。

 こうした移行をスムーズにするためには、個人について全ての社会保障関連データが把握できていることが必要だし、社会保障の仕組みも簡素化されている必要がある。

 マイナンバーの活用がもちろん必要だろうし、ベーシックインカム導入以前に、既存の社会保障の仕組みを徹底的に簡素化する段階が必要なのではないだろうか。

 もちろん、スイス人であれ、日本人であれ、ベーシックインカムを導入するとなれば、現実的な移行プロセスを真剣に考えなければならない。個人個人の生活に大きく影響する問題なので、それなりの激変緩和措置が必要だ。

 この場合も、一方で減る給付があっても、他方で増える給付があり、変化はその差し引きによってゆっくり行われることの説明が要る。

 ただし、現実の変化に時間をかけることには、たとえば小泉内閣の郵政民営化が時間をかけたこと(と細部を官僚に任せたこと)で中途半端なものになったように、あるいは民主党政権の子ども手当が官僚に巧みに潰されたように、ベーシックインカムへの制度移行が途中で不完全なものに終わるリスクを伴う。

 また、税制も含めて、各種の再分配を伴う制度は、そこに関わる人々の仕事を作り出す必要性のためか、年を追うごとに複雑化する傾向がある。これに歯止めをかけることがまずは重要なのだが、それを実現することは、政治的にも、行政的にも、大変困難が大きい。

類似の制度で着々と進める

 さて、スイスの国民投票でも、ベーシックインカムの長所として、行政の効率化が訴えられていたが、問題は効率化される側の抵抗だ。